12-2 大垣市は治安悪化中②
難民が流れ込んでおおよそ1年。
状況は改善されず、むしろ悪化していっているという。
「これはもう、どこでも同じ事ですけどね。
我々は予算に限りがあるので、広く浅く多くの人を救うため、給料を安めに設定している。貧しくとも生きていけるギリギリの額にするのは、そもそも仕事が無く生きていけない人を一人でも減らす為です。理解はされませんが、必要な事です。
彼らは少しでもマシな生活をするために、少しでも多くのお金が欲しい。ギリギリの生活を強いられれば心がすり減りますからね。特に、近くに普通の生活をしている誰かがいれば苦しい自分と比較してしまう。そしてより心を病むわけですね。
市民は一部の犯罪者と真っ当に働く難民の区別がつきません。一律、追い出してしまえと言っています。市の予算を食いつぶし、本来急ぐはずも無かった公共事業を行う事にも難色を示していますね。一部の犯罪者が目立つせいで、難民全てを犯罪者と思ってしまうのです」
署長さんの説明は、ありきたりでひねりが無い。
だからこそ、対応が難しい案件だ。誰にもなんともならないから、こうやって「ありきたり」と言えるほどに揉めているのである。
何度も起きている事態に解決策があるなら、早々に解決されて終わりなのだ。
解決していないという事は、そういう事である。
「俺の場合、猪狩りで普通に生きていけるけどな。そこまで動く人は少ないんだよね?」
「ええ。市民もですが、彼らの大半、一般市民は誰かに使われることを望むんですよ。
仕事を求め門戸を叩く者は大勢いますが、自分で仕事を立ち上げようとする者、危険に挑む者はほぼいません。たとえ商売を始める原資があったとしても、その為に使う事を決断できないでしょうね。
おかげで個人経営者になる狩人はいつも不足しています」
「ま、その方が責任も無くて楽だから仕方が無いね」
「ええ、仕方が無いんです」
従業員という道が無ければ犯罪者。
自分で商売を始めるとか、仕事を創るとか、そういった発想をする者はあまりいない。
それでも犯罪者よりも明らかに難易度の低い狩人すらやりたがらないというのは、俺には理解できない世界だ。
打てる手はいくらでもあるのに、安易に罪を犯す。
「視野が狭くなっているのですよ。自分にはもうそれしかないと、周りが何を言っても聞こえず耳を貸さず、思い付きで動く。
特に「こんなに生活が苦しいのは周りが悪い。自分は悪くない、被害者だ」という意識があると悪い事でもできてしまう。被害者になれば、何をやっても許されると思ってしまうものなのですよ」
残念ながら、署長の発言が現実だ。
俺にしてみれば犯罪に走る方が覚悟を求められ大変なのだが、追い詰められ視野が狭くなった人間は、妬ましい“持っている人”を害したい感情も合わさり、奪うことを選ぶ。
苦境も一因だろうが、本質的には嫉妬により、ケダモノに成り下がるのだ。
悲しいことに、こういった状況で正しさを守り続けられる人というのは、存外少ない。
時々、市が主導して猪狩りのメンバーを募集している。
しかし、そいつらは応募をしない。人は集まらない。生き物を殺したくないとか、猪を見るとディズ・オークを思い出すとか、理由をつけてまともに働く事から逃げる。
狩りに連れていってもらって、狩りを覚え、自立する気概がない。
誰かから奪うよりも安全に、確実に稼げる手段だというのに、そういった事には手を伸ばさない。
猪を殺しに行く、解体する事は、人を襲い傷付けるより簡単だと思うんだが。
本当に困ったものだよ。