12-1 大垣市は治安悪化中①
自分で作った料理よりも、人が作った料理の方が美味しく感じる。
久しぶりの大垣市、そこで繁盛している飲食店で、俺は定食を食べていた。
少々お高いメニュー。香辛料で下ごしらえした猪の肉を使い、複雑な味わいを見せる焼肉定食。
臭みは消しつつも猪独特の味を殺さず、美味いと思えるギリギリのラインを攻める焼肉料理。臭みを消すためとはいえ、下手にバランスを崩せばただ香辛料で辛いだけの料理に成り下がるのだがここの店主はかなりの腕の持ち主だ。実に美味い。
今は春になったばかり。昼間の暖気に逆らうような冷たい飲み物を呷るように飲めば、体が芯から冷えて、それでいて外の陽気で再び体が温まっていくので、非常に心地よい。
ピリリと辛い肉に、ほのかに甘みがあり酸味の強い果実水。組み合わせとしては最高だ。
「創様。この料理、村でも再現されますか?」
「いいや。しなくていいよ。こういうのは、この店に来て食うからいいんだよ」
一緒に食事をしていた夏鈴が、それほど美味そうに食うのなら、村で作ればいいんじゃないかと提案してきた。
それは、ちょっと違うんだよ。
店の雰囲気とか、俺はそういうのも楽しんでいるのだ。
この味は、この店で。
それが俺のジャスティスである。
飯の味に関してだが、こればかりは神戸町より大垣市の方が上だ。
神戸町は馴染みの町であり、仲が良い人も多いが、それと飯の味は関係しないのだ。
人口が多く、食材や調味料が豊富な大垣市の方に軍配が上がるのは、経済や文化の基本原則「人が多い方が有利」により、覆しがたい差となる。
物資の融通をもう少し利かせれば神戸町の食事事情も良くなるだろう。
しかし俺に頼り過ぎた文化の発展など、基本的に害悪だと思う。いなくなったらどうするんだという話だ。
これまでにいくつか、味が良く育てやすい作物などを融通した。だから現状は、あるもので頑張ってほしいと思う。
もしくは、仕事を増やし、人を増やすか、だな。
去年はディズ・オークに攻められたけどそこまで被害は出なかったようだし、2年前みたいにタイラントボアが攻めてきたなんて話は無かったから、畜産を含む食料の生産に難は無いはず。このまま越前からの難民を上手く取り込んでしまえば、それも不可能ではないと思う。
……神戸町はね。
さて。
軽く現実逃避してしまったが、大垣市はそこそこではなく、かなり治安が悪化していた。
原因は難民で、貧困層である彼らが犯罪行為に走ったからだ。
当たり前だが、大垣市だって余裕があるわけではない。
大量の難民は、どうしても都市の許容量を超えてしまう。
来た当初は疫病の問題があったし、周囲にも分散させてしまうと疫病のリスクも高まる。だからあまり効率的に難民を分散させられなかったのが尾を引いていた。
市レベルの都市を中心に、ある程度以上の規模の町。
医療体制がしっかりした場所に置いた人々は、そのままその都市に居ついてしまった。
彼らには帰る家が無いのだから、置かれた場所にこだわりを持っていた。これ以上、住む所を転々としたくないと言って。
日雇いの低賃金労働を大量に用意した大垣市などであったが、それでも仕事が人々に行き渡らない。
開拓などをするには原資が必要で、それを出すお金が無い。そもそも、国が元通りになれば帰るかもしれない人間に開拓などやらせたくない。ほとんどの都市が新規の土地の開拓には手を出さず、現状のまま、難民を支援していた。
だから、仕事から零れる人間はいなくならない。
そして仕事が無ければ、お金が手に入らなければ、他の誰かから奪えばいいと犯罪に走るのだ。
炊き出しもしていたが、その程度でこの流れは止まらなかった。
「それを俺たちに泣きつかれても、知りませんよ」
「いや、何かいい考え、きっかけになる事が一つでもあればと、その程度の軽い話ですよ。さすがにこんな問題を流人の創君にポンと解決されては、私も立つ瀬が無いですからね」
ここに来るまでに何度か襲われたので、その事を署長さんに話してみたら、無茶振りが来た。
雑談の一つ程度に話しているとは言ったけど、あの目は本気の目である。
知らんよ、さすがに。