11-6 『吸魔晶石』の行方⑥
実験でいくつも吸魔晶石を消費したので、しばらくは補充に取り掛かる。
有用性は疑いようも無いので、増産することはやっていかないと駄目だろう。
ただ、吸魔晶石もそうだけど、基本的に晶石系アイテムは俺が作らないと補充できないので、湯水のように消費すると地味に痛い。
村の生活では、食料や建材、金属製品などがすでに自作可能な段階に入っている。
嗜好品の類も、俺が手を加える必要がある酒などが、徐々に手を離れていく。今すぐは無理だが、数年後には俺が関わらなくても高品質な酒を作れるようになると信じている。
金属だって、スミス系の連中がどこかから鉱石を回収しているわけだ。
そういった俺がいなくても回る部分はいいけど、俺に頼りきりの消耗品があるというのは、かなり嬉しくない。
できれば晶石系アイテムも自作できるといいんだけどね。
「そんな訳で、君たちは選ばれた。
ゴブニュートたちの中から、たった5人、君たちだけが選ばれた」
晶石系アイテムは、考えるまでも無く魔法系統のアイテムだ。
つまり、魔法使いならこれを作ることができるかもしれない。
俺は魔術部隊のメンバーを集め、彼らに「晶石系アイテムの生産」を指示した。
我ながら、酷い無茶振りである。
「創様。その、申し上げにくいのですが、我々はこういったアイテムどころか、通常のアイテム生産にも関わっていないのですが……」
俺の無茶振りに対し、部隊長がちょっとだけ遠回しに「無理です」と返してきた。
分かるよ。
パッと思いつく適正職は錬金術師の領分だからね。本来であれば。
けど、錬金術師は不在で、手が足りないんだよ。
作れないわけじゃない。
莉奈が元はそのルートだったので、再現するだけだ。
ただ、残念ながら、これ以上カード枠を圧迫できないんだよ。
細かい部分は省略するが、リキャスト待ちを含めると仲間だけで20枠も使っているんだ。
どこかで歯止めが必要だ。これ以上のメンバー細分化による枠の圧迫は認められない。
つまり、手持ちの戦力だけでどうにかしたいのだ。
俺の説明を受けた魔術部隊の面々は「そんな無茶な」と言う顔をしたが、現状が好ましくない事だけは理解してくれた。
ただ、言われたとしても出来ると思っていないだけで。
「開発に失敗は付き物だよ。期間も設けない。そこはそちらの裁量に任せるよ。欲しい物があったら申請するように。
ただ、時々でいいからどんな実験をやったかだけ教えて欲しい。失敗とは言え、試行数を減らせるからね。どんな実験でもどんな結果でも、無駄じゃない事だけは理解してほしい」
言った側も、すぐに成功するとか考えていないよ。
基本的にノルマを押し付けるつもりはないし、できなかったからと言って文句は付けない。たまに「~~ってまだやってないよね。確認よろしく」と仕事を増やすだろうけど。
1年2年、まともに結果が出ないとしても、それが普通だと思っている。
むしろ、その程度の開発期間で出来たら凄いよ。
今度は「なんで人間側でこれが作れないの? 出回ってないの?」って疑問に思うレベルで。
人間側には、この手のアイテムって流通していないからなぁ。軍用に使われている形跡も無いし、今のところ晶石系アイテムは俺だけが作れるアイテムなのだ。
最終的には「そういう事でしたら」と彼らも俺の無茶振りを引き受けてくれた。
決定打はやっぱり追加の報酬を出すと言った事かな。働かせる以上は報酬を出すよ、俺は。
こうして村では晶石系アイテムの生産が研究されることになるのだが、報酬の話を聞いた他の面々も「魔術部隊ばかりずるい!」と言い出し、開発に関わることになった。
素で魔法が使えるゴブニュートの数は多く、他の面子でもやってやれない事は無い。
俺は素で魔法を使うことができないんだけどね。カードが無いと駄目なんだけどね。何がいけないのかなー?
愚痴は横に置き、吸魔晶石以外の晶石系アイテムはこの半年後に製法が確立することになる。
結局は『ディスペル』が必要になると知り、また研究生活に戻る事を、この時の俺はまだ知らない。