11-4 『吸魔晶石』の行方④
ある程度カーバンクルの検証が終わったので、次の事に目を向けたい。
『吸魔晶石』を使い、金属加工ができないかどうかだ。
「大将。本当に構わねぇいんですか?」
「ああ、やってくれ」
俺の目の前にはカード化を解除した吸魔晶石が擂り鉢に入れられている。
それをルーンスミス、村一番の鍛冶師が受け取り、俺に最後の確認をした。
粉末にしても、本当に構わないのかと。
俺がやろうとしているのは、粉末状にした吸魔晶石を金属に練り込み、新しい金属に仕上げられないかという考えだ。
似たような事をタイラントボアの骨で行っているので、不可能な話ではないと思う。
普通の奴に任せたのならダメかもしれないが、ルーンスミスに任せるのだから大丈夫だと、俺は根拠希薄な自信を胸にゴーサインを出した。
言われた側は本当に嫌そうで、そこはもう、俺との温度差が凄い。
言われたからやるんだと、渋々とした雰囲気で吸魔晶石を砕いて粉にしていった。
作業が始まってしまえば、ルーンスミスのような職人は徐々に顔つきが変わっていく。
雑念を捨て集中し、彼の考える「これでいい」の基準を満たすように作業を進めていく。プロとして、自分の技術を存分に振るう。
今回混ぜる金属は、俺の趣味で銀を使う。
こちらの銀も粉にしてあり、吸魔水晶の粉と軽く混ぜてから溶鉱炉に投入された。
炉の温度調整が行われ、俺には見えないが、中で二つの物質が混ざり合っていく。
完成形が気になるが、ここから先はスミスのお仕事だ。
ここでじっと見守っていてもしょうがないので、俺は俺で他の仕事をこなすため、別の場所へと移動した。
今回の実験は、吸魔晶石を1個丸ごと使っているが、銀の量が10㎏と少量だったので、炉の火を完全に止めて中から掻き出す作業が追加されている。
そのため、完成の報告を待つのにずいぶん長い時間がかかった。
5日後、炉から取り出された銀は吸魔晶石と融合し、新しい金属になっていた。
『虚空銀』
タイラントボアの時は『魔法銀(硬化)』だったので、まったく違う系統の金属になったようだ。
魔力を込めれば硬くなる魔法銀と何かが違うのか。
そう思った俺は虚空銀を手に取り、魔力を流そうとしてみたが。
「あー。そういう事か」
俺の魔力が触れようと近付いただけで、何もしていないにもかかわらず虚空銀に吸い込まれた。
「魔力に反応して効果を発揮する魔法金属」ではなく、「存在するだけで魔力を吸収していく虚空金属」といった位置づけと思われる。
魔力を吸収する範囲や特性に関してはここから検証の必要があるが、これはこれで面白いアイテムができた模様。
なお、カード化は普通にできた。だから名前が分かったわけだが。
魔力を吸収する力が強かったからか、普段よりもごっそりと魔力を持っていかれた気もするよ。
カードの状態なら無差別に魔力を吸収する事も無いし、ここから先は、また検証だね。
『虚空銀』:アイテム:☆☆☆☆☆:大:1日
周囲の魔力を飲み込む銀。飲み込まれた魔力がどうなるかは不明。金属としての性質は銀と同じ。
形状により、性質を変える事がある。
こいつら、武器にしたら面白いかもね。