10-23 俺の休日・後半②
どうでもいい話だが、我が家の隣にはリンゴの木が生えており、ちょっと離れた所に水場がある。
木は暑さ対策に植えたものに、初期カードの『リンゴ』を足してリンゴの量産を目論み、失敗したのだが、元の目的が暑さ対策なので、そのままにしてあった。
追加で強化すればなんとかなるとは思うけど、そこまでリソースを割く理由がなかったのだ。
推測だが、育て方、土地と気候などの環境に問題があるのだと思う。土に栄養が足りていないとか、寒暖差で糖分を溜めるだとか。聞きかじりの素人知識で言えそうなのはそれぐらい。
水場の方は、雨水が溜まった池ではなく、地下水が湧き出る泉だ。そこそこ大きい。
ただ、俺が来た当初は魚は住んでいなかった。
今では俺が調達した魚を放流してあるので、多少は増えているんだけどね。餌とか水草とか、魚が住む環境が整っていないのでそこまで増えない。
あと、台風が来ると大雨で流されてしまうので、その対策に専用の柵とか流れができにくい逃げ場とかを設置して保護してあるよ。
なんでこんな話をしたかというと、莉菜とのデートはこの2ヶ所が関係しているから。
莉菜は歩き回るのが好きではなく、それよりもゆっくりするのが好きなので、水場でグダグダする事にした。
空気はそろそろ冷たくなっているが、日が照っているから歩かず身体を動かさなくても寒いと言うほどではない。
「あまあまー」
「力業だなー」
莉菜は水場の畔でリンゴを囓っている。
食べている莉菜の蕩ける様な表情を見れば誰でも分かる事だけど、手にしたリンゴはとても美味しそうである。
今の時期がちょうど食べ頃なので、家から出る時に莉菜がもいできたのだ。
普通に生ったちょっと美味しい程度のリンゴだけど、莉菜が「お願い」をするとあら不思議、カードから物質化させたものと同等のリンゴに変身する。
莉菜はドルイドだからね。植物にお願いをするなど、造作も無い事なのだ。
「創さまも、どーぞ」
「ん。ありがとう」
莉菜から新しいリンゴを渡された。
俺の食べる分ぐらい、自分でカードから取り出せば済む話だけど、そんな空気を読まない行動は取らない。
莉菜が俺のために用意し、オレはそれを受け取って食べる。それが重要なのだ。
お互い身を寄せ合いながら、軽く拭いただけで皮をむいてもいないリンゴをそのまま囓る。
前世でリンゴの皮には農薬がウンタラカンタラと言っていた環境活動家が居た気もするが、ここでは完全無農薬栽培というか、肥料すら使わない天然自然モノなので大丈夫。そもそも日本のリンゴは皮を大丈夫だったけど。
皮をむくとか8つに割るとか、そんな事はせずに直接丸かじり。
それがリンゴを食べる、ここでの標準である。
そうやって、普通ではあり得ない甘さのリンゴに舌鼓を打つ。
甘くて美味しいのは確かだけど、食べていると喉が渇くな。水の樽でも出すか。
いくら野生動物が利用する水場でも、さすがに泉の水を飲む気にはならないよ。
これはどうでもいい話。
俺は話題にしないが、莉菜はゴブリンだった頃の夏鈴が、俺の食べかけのリンゴを芯まで食べた事をからかうネタにしている。
そうやってじゃれ合う姿を見ると仲が良いなって思うよ。