10-16 リベンジ本戦②
タイラントボアが1kmを駆け抜けるのに、1分とかからない。
山道坂道なんのその。悪路をものともせず、むしろ下りで加速しながら二頭が征く。
木々をなぎ倒しながら突き進むボアを尻目に、俺たちは避難場所へと移動を開始した。
ここから先の戦いは、俺は観察をする気が無い。
興味が無いわけではなく、安全かどうかという意味で見続けるのが困難だからだ。
観察している誰かがいると思えば、敵はそれを捕らえるために動くだろう。
だったら俺は、敵を観察できない場所へと逃げ込み、安全な所で戦いが終わるのを待つだけだ。
戦場を俯瞰し、観察する役目は夏鈴たちに任せる。
俺は俺で護衛を引き連れ、事前に確保しておいた避難所で息を潜める。
何かあったなら伝令を出すようにすれば良い。
即応性の面で問題が残るが、それよりも安全が優先されると、夏鈴たちから耳にタコができるほどうるさく言われた。
あまりワガママを言うわけにもいかないので、取り決め通りに行動する。
俺が移動した先は越前町ではなく、お隣の鯖江市だ。
平地続きなので同じ町のようにも見えたのだが、細い川沿いに分断された、別の市である。
これまで居たのが、町の北にある天神山。
夏鈴たちはすぐ隣の経ヶ岳の方に移動するが、俺はそのまま東に抜け、鯖江市の橋立山の山裾に身を隠す。
この山は3方向から囲むように平地を抱えており、身を隠すのに都合が良さそうだったのだ。
山の一部に薄いというかやや越えやすい場所があるので、すぐ北の福井市の方に逃げるのに都合が良く、脱出するのにも最適だ。
最悪の場合はここから北に向かい、九頭竜川沿いに走って逃げる。
身を隠すまでにほんの数km、5kmにも満たない距離を移動した。
途中で山を下り、平地を駆け抜けたが、たぶん見付かってはいないはず。弓兵に周囲の警戒を頼んであるが、こちらの周辺に来る兵士はおらず、事前調査もさせたので「実は伏兵が潜んでいた」などというオチもない。
移動が終わってすぐ、俺は水と食べ物を軽く口にして、休憩を取る。
何かあった時にすぐ動けるよう、満腹になるまでは食べず、空腹で動けなくなるような事が無いように腹8分目どころか5分目程度で抑える。
くそ、中途半端に食べると、より腹が減る気がする。
その後はじっとしているだけだ。
戦場が気になって落ち着かないが、俺はここに居ることが仕事だ。
椅子に座って戦いが終わるのを待つ。
変な行動を取って敵にバレるような真似はしない。
どこぞのアニメのヒロインのように、主人公の名前を叫んで敵地に突っ込み、敵に捕らわれるヒロインではないのだ。
我を通さず、石になったつもりで座り続ける。
1時間、2時間と待つが、皆はまだ来ない。
「戦場はどうなったんだ?」と気が急くが、それでも俺は動かない。
天を仰ぎ、太陽を見る。
陽は中天に登り、時間はちゃんと経っていることが分かる。
気が急きすぎた俺の勘違いで、実は大して時間が経っていないという事は無い。
ここは戦場から遠く、安全な場所。
皆の様子は分からない。