10-13 リベンジマッチ③
先制攻撃を仕掛けたのはこちら側だ。
ワクチンオーク魔法軍は鉄壁軍の構えるタワーシールド、全身を隠すような大きい盾の間から杖を突き出し、魔法を撃つ。
相手の数が多いので、特に狙いを付けなくても魔法は当たる。
真っ直ぐ正面から打つ者もいれば、奥にいる連中に対し魔法を当てるため、山なりに打ち出している者もいる。
敵の数が多いので飽和攻撃と言うほど魔法の密度は濃くならないが、魔法軍はそれぞれ敵の先陣が鉄壁軍と接触するまでに五回は魔法を撃っている。
125体の魔法軍なので、625回の先制攻撃に成功したわけだ。
先制攻撃を行った結果、敵の先陣は半壊。命中率は40%ぐらいのようで、敵戦力を2割から3割ほど削っている。
これだけで充分すぎる戦果を出したと見ていい。
敵の先陣が鉄壁軍と接触したが、こちらの陣容は密度を濃くして崩れないことを念頭に置いている。
すぐ後ろには攻撃を行う魔法軍が控えているので、そちらに攻撃を通さないことを大前提としているのだ。
敵兵は鉄壁軍に取り付き攻撃を仕掛けるが、鉄の枠に木をはめ込んだタワーシールドを破壊するのに手間取り、こちらはすぐに崩れない。
その間に魔法軍が更に攻撃を仕掛け、敵の密度が濃くなったこともあってさっきよりも効率よく敵を屠っていく。
見ている間に死体が積み重なり、全軍ゆっくりと後退していくことで、敵の足場を悪くしていく。
「お。ここで煙玉」
「あの色は……毒の方ですね」
後退している間に風の向きが変わり、これを機と見たジェネラル指示の下、魔法軍が煙玉を使用した。
使われたのは毒煙玉の方で、これだけで敵全軍を覆い、かなりの被害を出す。
後ろに控えていた召喚術士も煙にやられ、もがき苦しんでいる。
「んー。それにしても、やっぱりおかしくないか?
どう考えても連中の戦術は召喚術士を無駄に温存して戦力を削らせているように見えるんだけど」
「そうですね。あの召喚術士を護衛付きで前面に置き、先制攻撃であの魔法を使わせれば、こちらも相応の被害を出しました。
ですのに召喚術士は動かず、こちらの攻撃に晒されています。今も前にいる味方を考慮してか、あの魔法を使いません。
正直に言いますが、敵の行動には一貫性が無く、戦略・戦術的な思考で動いているように見えません。陽動にしてもお粗末すぎます。ここまで愚かであれば越前にいた人達だけでも迎撃できたように思えるのですが……何かがあった、ということかもしれません」
「敵の指揮官が病気で死んだ、とかかな。遊んでいれば、そういう可能性も高くなるだろうし」
俺と夏鈴は俯瞰した視点から敵の動きと戦術的な狙いを推測するが、敵が何を考えているか、全く分からなかった。
ここまでグダグダな戦いをされると、負けることが目的にしても酷すぎて何とも言えない。
負けを演出するとしても、こちらに打撃を与えるべく、何らかの動きがあってしかるべきなのだが。
さすがに、自軍にも被害が出ている。
盾に剣を突き刺され、腹から血を流す者。
大きく横を迂回するように動き、盾の後ろで暴れられたことで傷を負った者。
そして、頭や首から剣を生やすことになった者。
両軍からそれぞれ、2~30人程度の損害が出ている。
ただ、それでもこのまま押し切るかと思いきや、敵が外壁側から大きな魔法を使う。
半径100m以上、戦場全域を包むように魔法陣が展開され――
「お、キャンセル成功」
こちらの準備していた、対召喚魔法用のアイテムにより、何も起きなかった。
「意外と何とかなるんだな」
敵が何を考えていたかは知らないが、中々酷い事に成功した模様。