10-5 越前町の攻防⑤
バラ撒いた病原体の効果は抜群だった。
途中で「猪よりもディズ・オークを使えばいいんじゃないか?」と思いはしたものの、コスト的な問題によりそのまま猪で継続。
1回につき3~5体程度のディズ・オークを感染させただけが、寄り道を含めた15日後には越前町にいるディズ・オーク全てが感染したのではないかと思うほど、被害を広げていた。
実に素晴らしい。
これは推測だが、ディズ・オークは病気にならなくなって長い為、病気になった時の知識や経験が遺失しているのではないかと思う。
こういった知識は一度失われると、再び体系化した知識を得るまで数十年では全く足りず、数百年を要するとも言う。
奴らの場合は知識ゼロの状態で病気と闘う事になった為、防疫や二次感染防止といった基本的な行動が出来ておらず、簡単な看病によりその被害を拡大させたものと思われる。
中世ヨーロッパレベルでもいいから疫病に関する基本的な情報があれば、ここまで被害は出なかった。
パチ屋に突っ込んだ客のごとく、感染症は一瞬で広まった事だろう。何も考えていない人が集まり、ウィルスを更に拡散させたのだ。
考え無しの行動をとると、簡単に病気を広めるのがよく分かる。
「夏鈴。一度、連中に直接攻撃をしようと思うんだけど、どうだろう?」
「いいですね。敵が居ると分かれば、連中は密集するでしょう。感染拡大に大きく貢献できると思います」
今回の感染はボーナスタイムのような物だ。
密集すると拙い、オーク・オーク感染が知識として蓄積されてしまえばいずれは効果を失う。
まぁ、1年か2年は知識が浸透しない、大丈夫と思うけど、今のうちに畳み掛けておきたいというのは間違っていない。
夏鈴も俺の意見に賛同し、敢えて姿を見せる事で敵の警戒心を煽り、このまま感染拡大を手伝っておこうという意見に頷いた。
とは言え、自身の安全を最優先に考えると。
「創様は前に出ないでくださいね。戦うのは私達だけで大丈夫ですから」
とまぁ、夏鈴から出撃禁止を言い渡された。
周りの皆も頷き、俺の味方はいない。
終や魔剣部隊の面々なども、俺が戦う必要は無いと言い切り、足手まといとまで切り捨ててきた。
「いや、ご主人は大将で、大将が倒れたら戦はそこで負けなんだぞ?
なのに大将が最前線出でるとか、あり得ないだろ」
「そうですそうです。大将は本陣でどっしり構えているのがお仕事です!」
言っている事は分かるので、渋々みんなの意見に従っておく。
俺が死んだ時に皆がどうなるのかは、分からない。
それを考えれば、俺が前に出ない事は確定事項だ。
「創様は、普段はご自身の命を大切にするというのに。なぜ、こういった場面では前に出ようとするのですか?」
「いや、俺は俺の危険が無い範囲で動いているよね?」
「それでも、です。なんだかんだ言って、前に出る事が多いではありませんか」
敵に騎兵という兵種はなく、オーディンのサポートがあればヒット・アンド・アウェーも難しくないと思う。
そうやって戦場の空気を肌で知る、安全な位置で戦いを経験しておくのは悪い事じゃないと思うわけだが。
「戦は水物。油断は禁物です」
夏鈴たちには分かって貰えないようだ。
俺が戦場を甘く見すぎているのだろう。
俺は護衛に囲まれ、皆を見送る事しか許されなかった。