10-4 越前町の攻防④
猪たちが殺され、食われていく。
オークといえば豚人間。豚は家畜化した猪の事なので同族みたいな物だと言ってやりたいが、そこまで考えて、同族食いを忌避するのは人間特有だったと思い直す。
雑食や肉食だと、同族を襲って食う事もあるからなぁ。
さすがに身内は襲わないようだけど。
病魔が猛威を振るうその後を監察する事もなく、俺たちは10日ほど越前町から離れる事にした。
ディズ・オークが一番多いのは越前町だったが、他の都市にも奴らは居る。
一都市から病気が蔓延したとして、それが全体に行き渡る保証はない。
残念ながら、この世界では人の移動が限定的すぎて、ヒトヒト感染が都市単位で完結してしまう。
越前だけで終わらないようにする為、他でも同じ事をするつもりなのだ。
……名も無き猪よ、スマン。
俺たちの補給と魔力の都合上、作戦行動は2日に1回が上限になるが、それでも頑張って感染源を広げる。
可能なら海の向こうにいるだろう、ディズ・オークの本拠地まで感染が広がってくれると嬉しいが、さすがにそれは難しいだろうと考えていたが。
「創様。殺す為の病魔だけではなく、熱が出て終わりという物は作れませんか?
ほとんど死なず、やや調子が悪くなるだけ。その程度の病でも相手の勢力が衰える一因になります」
こっちに来た連中が海の向こうに戻る保証はない。
連絡船のような物を使っている事実は確認されていない。
無駄足になる可能性もあるにはあるが、やってやれない事はないのだから、やっておくか。
どうせやるなら海沿い、港湾都市が良い。
そう思って坂井市の三国、東尋坊で有名な場所までやって来た。
だが、こちらは金沢市がすぐ近くなので、ディズ・オークの大きな集落はなかった。人も居ないが、敵も居ない。
ここは隣接する加賀の国から攻めやすく、加賀百万石の戦力により駆逐が進んでいるようだった。つまり、俺の出番は無い。
残念ながら、海沿いで他に良さそうな候補地が越前の国にはなかった。
なんでこうなるんだと考えたが、逆に考えると、海軍勢力の強い場所に直接乗り付けても相手がたくさん待ち構えているのだから、弱いところを狙って確実に勝ちにいったのだと推測できた。
問題はそこまでたどり着けるのかとか、色々あったと思うが、現状が“こう”なのだからやってのけたのだろう。
そうなると、海沿いで一番大陸とのやりとりをしていそうなのは梅浦かな。
ここの病気だけ、やや抑えておくか。