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9-25 幕外:梟雄②(第三者視点)

 村河は、気が付いたらこの世界にいた。

 元の世界とは全く違う情勢の、元の世界を思わせる名前の付いたこの世界に。



 過去の記憶は断片的でしっかりとしたものは数少ないが、この世界に来た影響により村河には『鑑定能力』という、謎の能力が生えていた。


 鑑定とは、専門知識をもとに科学的・統計学的・感覚的な分析を行い、評価・判断を下す事を言う。

 鑑定能力とは、専門知識も何も無い者が、アカシックレコード的な何かから情報を引っ張り出す能力である。鑑定をしているのは本人ではなく能力であり、鑑定の能力者は引き出された情報を閲覧できる許可を与えられた、許可証持ちのような存在である。



 この能力を駆使して生きていく事を決めた村河だが、戦闘能力よりも内政向きの能力だったため、その半生は苦労の連続だった。

 なにせ、鑑定能力で手に入った情報は他人に信じてもらう事ができないからだ。


 最初は価値のわりに評価の低い物を手に入れて転売すればいいと考えていたが、転売先の信用が無ければそんな売買に関われないし、原資が無ければそもそも安かろうと買うことができない。

 必死で働き、僅かでも金を貯め、手に入れた物は足元を見られ買い叩かれる。そんな日々が続いた。



 転機はこの世界に来て10年、25歳の時に訪れた。

 堀井組という組織にスカウトされてからだ。


 堀井組は知識はあり、頭が回る村河に目を付けた。そして仲間に引き込んだ。

 堀井組の手を借り場所を与えられた村河は、瞬く間に頭角を現し、そして5年後に堀井組との縁を表向きは(・・・・)切った。

 組で知り得た情報から、このままではいけないと考えたからである。



 当時から、尾張の国は名古屋優遇の国策を取っていた。

 その為、地方には名古屋と名古屋を優遇する国主への不満が渦巻いていた。

 このままでは誰も幸せにはならないと、村河は決断したのである。


 そして組と縁を切った村河は、そのまま名古屋で人心を集め、ほんの3年で市議会議員になった。

 名古屋でも地方を蔑ろにする政策に不安を抱いていた者は大勢いたので、村河にとって議員になる事は容易かったのである。

 また、人間を鑑定することで本来知り得ない情報を得る事で、落しやすそうな議員は仲間に加え、時に敵対する議員を脅し、3年で名古屋市市議会の市長に就任した。村河猛、当時41歳。今から4年前の話である。



 ただ、彼の快進撃はそこで止まる。 


 ようやく話が出来るようになった国主は、彼の手に負えない愚物だったからだ。

 さすがの彼も、人の話を聞かず、誰もが自分に従うのが当然と考え、そして非常に合理的過ぎる(・・・)考えで動く大町(おおまち)前国主をどうにかするには地盤が弱すぎたのだ。


 前国主の大町は、人間の感情が理解できない男だった。

 国策は合理性しか考えておらず、名古屋優遇もそれが合理的と判断したからそうしたに過ぎない。

 彼にとって民衆とは、ただの数字でしかなかった。彼は他人を人間と思っていなかったのである。


 ただ、他人の感情を理解できない冷酷な人間である事を抜きにすれば、大町はそこそこ優秀ではあったと、村河は認めている。



 仕方なしに村河は堀井組を頼り、警察を生贄にする事で地方の怒りを適度に発散させ、時間稼ぎを始めた。

 そして裏で地方独立を画策し、10年(・・・)かけて三河エリアを切り離す構想の実現に着手する。


 4年で地方が暴発したのは彼も完全に計算外で、まったく準備が足りない状態で内乱に突入する羽目になったのはよくある話だ。

 何事も準備を周到に行えるとは限らず、あちらもこちらもてんてこ舞い(・・・・・・)の状態になったが、そういうものだと村河は割り切って生きている。





 そんな村河が頭を悩ませるのは、最近出回っている一つの薬である。



『対ディズ・オークの血清薬(錠剤)』:アイテム:☆☆:創

 ディズ・オークのもつ疫病への抵抗力を与える錠剤。血清をベースにしているが、飲み薬である錠剤に加工されている。1錠あれば成人男性一人まで救う事ができる。

 現在の技術で複製はできない。



 最後の「創」というのは製作者の名前だ。

 たまに情報がブレて「カイ」などと変わる事もあるが、基本的に作ったものの名前は「創」である。


 村河は、創という者が美濃の国に居るという、錬金術師らしき存在である所まで把握している。

 2年近く前に堀井組と戦争をして勝利し、若頭のテルが「手を出してはいけない相手だ」と警告していたことも聞いている。



 尾張の国や堀井組といった組織に引き込む事はできないだろうが、どうにかして仲間にしたい。

 外部協力者のような間接的な仲間で構わないから、敵対せず利益を享受する側に回りたい。


 できれば、立場など忘れて話をしてみたい。



 村河はそんなことを考えるが、それが非常に難しい事はよく分かっている。


 おそらく自分と同じ立場の人間。

 そう思うと、難しい事だからと言って諦めきる事はできなかった。


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