9-24 幕外:梟雄①(第三者視点)
尾張の国は三河の国と分断され、二つの国となった。領土としては豊田より東、東西の三河を抑える三河の国が旧尾張の国の3分の2を占めるようになった。
名古屋の発展は分断された三河の力に支えられていた面が大きいので、今後、尾張は勢力を大きく落とすと誰もが予測している。
ただ、三河の国が順調かというと、そんな事は無く、新しい支配体制を安定させるために右往左往しているといった有様だ。
これまでは支配される側だったのが、いきなり自立したのだ。法律は尾張の国だったときのものを流用するとしても、政治家については完全に刷新されるようなもので、醜い権力争いを始めてしまった。
また、国の首都に関しては豊川を中心地とする事で話がまとまっていたのに、より海に面した豊橋、内陸の豊田もそれぞれが首都を目指して勢力争いを始めた。
今回の内乱は早々に終結したが、始まりは暴発そのものだったので、圧倒的に準備が足りていなかった。
話し合いが十分でない中の勝利であったため、主導権争いはどんどん激化していく。
こんな時、内乱を勝利に導き独立を勝ち取った功労者が国主となり、そのカリスマなどで物事を決めていくことができれば、混乱は小さく済むはずなのだが。
その最大の功労者は、いま名古屋で新しい尾張の国主となっていた。
「村河 猛」元名古屋市市長。
内乱においては三河と共謀して前国主討伐に協力し、尾張名古屋の敗北を演出した男。
前国主よりも全国的に人気のあった男は、その能力の高さにより尾張の統治者となっていたのである。
「駄目だな。減収と出費増で大赤字なんてもんじゃない」
その村河は、今期の予算案を見て盛大に嘆いていた。
地方からの収入が無くなり、名古屋とその周辺だけでやりくりしていく事になった新しい尾張の国だが、その鼻先に突きつけられた現実は「これまで通りの運営は無理」という、厳しい現実だった。
古い尾張の国では上層部の放漫経営で無駄が大きかった、という都合の良い話は無い。
残念ながら、前の尾張の国でもそこそこではなく、かなりきちんとしたお金のやり取りがなされていた。よって新しい政府になったから都市運営は風通しが良くなったことにより改善される、などとはならなかったのだ。
単純に、前国主の派閥が追い出されて新人だらけになり、経験値の少ない張りぼて政府ができただけである。わずかに残った梁の部分、残ることができた者たちによって何とか支えられているのが現状だ。
そんな中では無駄な作業や余計な事業計画が乱発され、少ない予算がさらに浪費されるという悪循環に陥っていた。
村河はそんな無駄を作る若手を大いに粛清し、しかし追放などはすることなく安い給料でこき使うようにして名古屋を必死に守っている。
彼にとって「今の名古屋」は故郷でもなんでもないのだが、「名古屋の出身」であるため名古屋への思い入れは深く、簡単に見捨てる事などできない。
村河猛、推定45歳。
彼は創などと同じ、途中参加の能力持ちだったのだ。