9-23 怖い事
越前の国までなら、歩きではなくオーディン達の背に乗ってしまえば3日で着く。
道を知らないので無駄に時間をかけて、寄り道をしながら3日だ。次回以降、帰りなら2日あれば余裕だろう。
道中、他国に逃げられず近場にキャンプを作った人達の成れの果てを見た。
食料不足に疫病の蔓延。
朽ちた身体はそのまま残され、全てが酷い事になっていた。
「燃やすよ。凛音、手伝って」
凛音と二人、ほぼ口を開く事無く、その場の全部を焼いた。
ここは野生動物への新たな疫病の感染源になっていただろうが、早めに対処したので、被害は最小限にとどまったと信じたい。
ここで感染した動物から、更に人に感染する。
食料不足の今の時期、食料調達で森に入る人が増えているだろうから、感染のリスクはかなり大きい。
疫病は本当に厄介だ。
ディズ・オークから逃げ出した人がどれほど居たかは分からないが、奴らから攻められ、おおよそ半年が経過している。
その間に近隣で生き延びる事ができた人は少なく、生き残れたのは難民となって南に逃げ切れた人だけ。
北に取り残された人はほぼ居なくなり、現地近くにキャンプなど存在しない。
こちらが準備に時間をかけた事も、現地近くに生き残りがいない理由だろう。
ただ、準備不足で挑んだところで意味など無かっただろうし、俺が全部をさらけ出してまで大勢を救う選択肢を持たなかったのだから、出来る事などたかが知れている。
多分も何も、俺が全てを擲つ覚悟を持っていれば、もっと多くの人を救えただろう。
だけど俺はヒーローじゃない。
こんなご時世なら俺でも出来る事があると思って無理難題に挑むような性格をしていないし、そこまでしたい理由が無い。
俺は自身の生存とちっぽけな幸せに浸りたいだけの小者である。
大切な物は多くを持たないように腐心している。
そんな小者に期待し、大きな何かを背負わせないで欲しい。
どうしても、怖い事を考えてしまう。
越前の国には、かつて俺のような能力持ちがいた様子である。
そいつはどんなヘマをしたかは知らないが、アンカマー相手に不覚をとって死んでいる。事になっている。
その同類の人間はそうなるまで戦いを強要され、使い潰されたのではないか?
もしくは、戦場で見捨てられたか。
どちらにせよ、現場の人間が、彼か彼女かも分からないその人を死なせた、そのように思うのだ。
国とか、そういう組織が信用できない。
俺という個人を見ず、能力だけで知った気分になり、使い潰そうと動かないか、そんな事を考えてしまう。
チートな能力持ちと思われる誰かが殺されたかもしれないのに、俺が対抗できるかどうかなど分からないのだ。
今回、俺は自身の安全確保の為にディズ・オークの前線基地を攻撃する。
全滅など考えていないが、相応の打撃を加え、しばらく活動できないように追い込もうとしている。
これが誰かに知られたら大問題だよな。
そこまで出来る人間を国が放置するなど、まずあり得ない。
絶対に、これからやる事を知られてはいけない。