9-21 鳥は発つ
神戸町はそこそこ規模の街だけど、さすがに他国の者が狼藉を働けるほど、治安が悪くない。
こうなることが予見されたため、大垣市から警察官が派遣されていたのも大きい。
尾張の勧誘員、ニノマエで暴れたために全員逮捕。
馬鹿みたいな話だけど、彼らはラノベにありがちな「他国の外交官が現地の警官を外交特権で威圧する」展開が出来ると信じていたようだ。
尾張の外交官だと威張りくさっていたが、だからどうしたと警官は彼らを捕縛。そのまま大垣市まで連行したようだ。
この一件で、過去にニノマエの従業員を捕まえた連中と大垣市の警察官は違うのだというアピールが成功し、彼らの復権に繋がったようである。そんな連絡を受けた。
一般市民を強制連行して拷問にかけたなど、法と秩序の守護者である警察のする事じゃないからね。
そんな事をする連中だという目で見られれば、警察も動きにくかっただろうさ。
これだけで完全に信頼を取り戻せると言うほど都合のいい話ではないけれど、少しでも地位向上が出来たのであれば、それは善いことだろうね。
あと、三河の独立勢力は駿河だけでなく信濃の国の支援を受け、ほぼ独立を成功させた様子であった。
いざ戦争となると時間がかかると思っていたけど、なぜか名古屋攻めを行った三河の軍の奇襲が成功し、三河有利の条件で講和が結ばれたのだとか。
ほんの1ヶ月で終わった独立戦争は、1年戦争ならぬ1ヶ月戦争として、三河軍の精強さとともに語り継がれることになった。
俺の方はそんな連中に煩わされることなど無く、着々と越前で暴れるための準備を整えている。
使い捨てにするつもりであれば、道具類の使用制限などあってないようなものだ。定番となる毒煙玉を始め、有用そうな物を作ってはため込んでいる。
食料の方は、特に何か考えなくても大丈夫である。
エルフの難民キャンプには追加で食料を運んだが、切り拓いたばかりの周囲の土地でもサツマイモとか蕎麦ぐらいなら育てられるからと、三度目の食料供給はやんわりと断られた。
あまり世話になってばかりではいけないからと、そんな理由で彼らは自立の道を選んだ。
今では家の数も増え、雨露に悩まされることも無くなりつつある。
譲渡した農具もいずれ新しいものに替えて返却すると言っており、エルフ達は俺の手を借りて苦境を脱しはしたものの、そのまま依存する気は無いとの立場を表明したわけだ。
そこいら辺は誇り高い森の貴族の面目躍如と言っていいように見えるが、結局は農地を切り拓くあたり、人間なんだよなぁと思ったりしたよ。
人間の文明は、農業から始まるのである。
エルフもそれは同じというわけだ。
大垣市の警察とは上手くやっている俺だが、美濃の国全体で見れば、やはり立場は不安定である。
医者として送り込んだジンは、俺に関わる件で暗殺者としての仕事も始める必要があったようだ。
直接確認したわけではないが、推測でジンの仕業と思われる殺人事件が何件か起きている。
ジンと俺の繋がりは、そうとう頑張らないと分からないようにしている。
よって、俺との繋がりなどないだろうと油断して、ジンを相手にいろいろと情報を抜かれてしまった連中が粛正対象となったのだ。
面倒事など動き出す前に抑えてしまった方が何かと都合が良い。
医者という立場も権力者に近付くには有効に働いたようで、しばらくは暗殺者のジン無双が続くだろう。
暗殺者としてだけではなく、医者としてもジンが頑張っているという話も聞こえている。
大垣市と同じように、現地の医者達に疫病対策を教えているジンは、その立場を確たるものにしている。
そして疫病の被害は、美濃の国に限ってだが徐々に落ち着きを見せている。
ここまで頑張ったのだからジンに何かご褒美を渡したいが、どうやって渡せば良いかが思い付かない。何か良い方法は無いものだろうか?
大きな出来事もあったが俺に影響は出ず、引きこもっている間に時が過ぎ、旅立ちの時になる。
目指すは越前の国、ディズ・オークの前線基地だ。
俺はいつもの3人娘に終を加え、5人で北へと向かった。