9-20 引っかかり
視点の変更というか、立場の違う人の考えを推測するとか。
やや名古屋よりで考えていた俺だったが、独立を主張した三河の人達の立場で見ると、尾張の国の一部が独立を宣言したのもやむを得ないことだったわけだ。
自分たちのことしか考えない国主など、百害あって一利無し。
俺だって似たような理由で気ままに生きているので、三河の方により共感できる。
タイミングにしてみても、名古屋側がやらかした、傲慢だったと考えれば変でもなんでもない。
難民を押しつけ、自分たちは知らない、関係ないという立場をとりつつも、「尾張の国としては難民をちゃんと受けいれているぞ」と言おうとしたのだから人を馬鹿にしているとしか言いようが無い。
たまーに噂話で聞いた、部下の手柄を横取りして出世するクソ上司とかが居たがこの国主はその同類なのだろう。
「国主の行動を諫めていた村河市長は、国主の罷免を要求していました。
市長は三河に独立をされたのも仕方がないのでこれを認め、これから新たな関係を作るために国主を入れ替えるべきだと大衆を扇動した罪で捕らえられそうになったのですが、民衆の手引きもあって逃亡には成功。今は行方が分かりません」
「いや、そこまでグダグダだったんだ……」
「はい。グダグダです」
困ったことに、俺の所にはそんな情報が入ってこない。
情報統制でもされているのかな?
そして、目の前に居る署長は、そんな情報統制の中でも情報を集められる伝手を持っているのだろう。
優秀だなぁ。仲良くしておいて、本当に良かった。
尾張が俺を要求しているというのも、そうやって使える人材が減ってしまったことで、補充の必要性を感じているからだろう。
補充した人材が自分の言う事を聞くかどうかを考えていないのはお粗末だが、「そんな事はやってみないと分からない」の精神なのだろう。
もしくは「自分たちは偉いのだから、平民は盲目的に従うだろう」というクズ思考。
立場に対し誇りを持ったお偉いさんや現場の現状を理解する頭のある上司というのは頼りがいのある存在だが、自身の保身と出世にしか興味が無いクズとか、状況を考えずとにかく自分の要求を突きつけることしか出来ないゴミはさっさと排斥して欲しいと思う。
しかし質の悪いことに、正しい上司と悪い上司が戦った場合、悪い方が勝つことが多いのが現実である。そのあくどさで悪が正義に勝つのだ。しかも、良い上司が悪い上司に堕ちるという形で。
組織なんてものは、古ければ古いほど、腐っていくものだ。宗教組織と言えば腐敗と悪の代名詞だが、最初は清廉潔白であった組織も少なくは無いはず。
徐々に徐々に腐っていく組織にどれだけ新しい風を吹かせることが出来るのかが鍵になるが、時には組織の解体をして一から作り直す、時代の変革期とでも言うべきものが求められる。
尾張は、ちょうどその時期に入ってしまったのだろう。
もう少ししたら越前に行くし、大垣方面に次に来るのは早くても2ヶ月以上先となる。状況次第では3ヶ月は来られない。
可能なら、その間に村河市長が主人公の大立ち回りがあって、尾張の国を変えてくれると嬉しいな。
ん?
尾張の国で、何か引っかかってる。
あ。堀井組だ。
尾張の国の自治組織、堀井組。
あいつらは、何をしているんだろう?
独立勢力の中核か?
それとも、第三勢力として立ち回っているのか?
署長さんが何も言っていなかったし、特に何もしていなかったとか?
なんか、気になるね。