9-19 俺にも召喚状
俺に出来ることはもう何も無いが、俺に向けてやって来る厄介事はある。
「今度は俺に召喚状ですか?」
「ええ。情けないことに、戦力が足りないので連れてこいと言っている馬鹿がいるのです。
召喚状は私の方で突っぱねていますが、そういったアレらと同じ馬鹿は、行動力だけはあります。創さんを直接連れていこうと動く可能性があるため、申し訳ありませんが、また外出の自粛をお願いします」
大垣の警察署で署長さんに回復薬を納品。
次回は他の者に頼むけど、情報の交換がてら、顔を合わせにやって来た。
すると、署長さんは、また俺を戦力として取り込もうとする残念な勢力が現れたと、申し訳なさそうに教えてくれた。
その残念さんは、尾張の国、名古屋の議会である。
「今更、の一言ですね」
「ええ。回復薬の納品が止まったらどうするんだと突っぱねましたが、もともと尾張に回復薬を流すことはしていません。その結果、尾張の連中はこちらの事情を無視して貴方を連れて行きかねないのです」
回復薬の納品は、元は警察署で暴れた事への謝罪である。
よってどのように回復薬を流すかは署長さんに一任していた。
署長さんは大垣市の議会と、首都である岐阜市を中心に回復薬を流していた。そして新しい物が来るとそれを越前に流し、自分たちは常に新しい物を確保する。そういったサイクルで広く恩を売りつけていたのだ。
回復薬が一番使われるのは、激戦区の越前である。南にある尾張に回復薬が流れることはなく、その効果や有用性への認識が理解されていなかった。
現状の俺は回復薬を作らせるのが一番の貢献だと、知った顔の中ではそういった認識をされている。
ただ、知らない尾張の連中にしてみれば、使えそうな一般人だったというわけだ。
しかも空気が読めず、周囲が俺に対し配慮をしていることに対しなんの考慮もしていない。自分たちのことしか考えていない。
情報が非常に古く、配慮に欠ける。政治家としての無能ぶりが透けて見える話だった。
「今の尾張の議会は、名古屋以外を田舎者の住む土地と見て格下扱いするのですよ。ですから、こちらの言葉に耳を貸しません」
「いや、それってどうなんだろう? 政治的には、そうとう拙いですよね」
「だから駿河が動いたのですよ。知っていますよね、三河の独立は」
「ああ、だからですか……」
俺は名古屋の議会を馬鹿にすると、署長さんは苦笑いで現在戦争をしている理由について説明してくれた。
名古屋の議会は、市長はまともだけど、その上にある国主がダメダメらしい。
で、村河という市長が地方に対して何の配慮も出来ない大町とかいう国主のフォローをしているんだけど、それでも国主の権限が強すぎて不満が爆発。
駿河は裏でいろいろと動いていたところまでは確かなんだけど、むしろ暴動ではなく、もっと穏やかに話が進むように手を貸していたという。
なお、三河が独立を決めたのは、難民の扱いだ。
尾張の国は大都会の名古屋を守るべく、難民を全部地方に押しつけようとしたのだ。食料負担に疫病対策と、全部地方任せで名古屋だけは何の負担も無しと、そのように通達を出したらしい。
それで地方はぶち切れて三河は独立を宣言したと。
駿河は独立した彼らがちゃんと領地運営を出来るようにと手を貸しているため、こうやって話を聞くと、駿河が裏で悪さをしたという印象が消えていく。
戦争の善悪って視点の問題だよなと、そんなことを思った。