9-17 疫病対策のついで
この展開は、最初から予想していた。
疫病にあえぐ民衆。
自身に病が襲い掛かるのではないかと恐怖する為政者。
子供でも分かる話だ。そんな中に優秀な医師を放り込めば、確実に取り込もうと動く。
「いやー。私の事を暗殺者の頭領だと警戒していますが、ご主人様も相応に酷い性格をしていませんか?」
「相応に、ではないかな。それよりもかなり、だと思う」
「……自覚があるのですね。さらに質の悪さが増しました」
「そりゃあもう。人殺しだよ、俺も」
俺がかねてから考えていた計画を口にすると、ジンは俺を悪党と褒め称えた。
なので、俺はそれに乗り、自分は大悪党だと笑ってみせる。
笑っている場合ではないのかもしれないが、心に余裕が必要なのだ。
「では、彼方に着いてからは自由に動いていいんですね?」
「助手の人らは大切にするように。俺から言える事はそれだけだよ」
「そうですね。私は、彼らを守らねばなりません」
懸念材料があるとすれば、ジンを慕う5人の部下だ。
これは当初、まったく考えていなかったので、考えねばならない事が増えて頭が痛い。
まぁ、為政者にしてみればジンに対するちょうどいい鎖や枷となるので、色々と捗る事だろうけど。
今度こそ、お仕事を頑張ってください。
ジンたちは大垣市を出て、岐阜市の方で医者として活動することになった。
難民の受け入れ数は岐阜市が最多で、患者の数も最多だから、かなり忙しい事になるだろう。
頭の片隅にでも置いておくべき話としては、ジンが一般の患者ではなく、ごく一部の権力者専属とされる事ぐらいだ。
この美濃の国では未だに民主主義の思想が根付いている。
その民主主義により選ばれた権力者でも一定数のロクデナシが混じるので、高い確率でお偉いさん専用医師に抜擢され、人々の為に力を振るうことができなくなるという未来が予測される。
まぁ、実際に雇ったのは医者ではなく暗殺者の頭領なわけで、しかもその事を雇った側が知らないという展開になり……。
あとは、なるべくして、なるようになるだろう。
その結末は、推して知るべし。
俺もジンも、そうなる事を前提に話をしている。
俺たちは疫病対策だけではなく、権力による腐敗箇所の除去という大手術をするつもりなのだ。
こういう事もしておかないと、越前奪還が遅れに遅れる。
俺が暴れただけでは越前は取り戻せないので、お前らも頑張れ、という訳だ。
タイラントボア解禁までは、こういった地ならしを頑張ろう。
もう2ヶ月ちょいあるけど、それまでに風の通りが良くなっているといいんだけどな。