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9-16 疫病対策⑤

 当たり前だけど、一人の力はたかが知れている。

 医者一人が何人もの人を診た所で、何十人どころか何百人という人には対応しきれないし、そもそも複数個所の感染症に対応するには、それぞれの街での活動が必要なのだ。最低でも街の数だけ医者が要る。



 ジンは他の医者に治療法を教える事で手を増やしているが、それですら焼け石に水というのが現状である。


「ああ、それだとその子に薬は効きませんよ。発熱もそうですが、下痢になりかけているので、胃腸の状態をどうにかする方が先ですね。でないと薬を無駄に投与することになります。

 ですので、こちらの薬を――」


 ジンが教えられるのは、治療法のほんの障りの部分だけだ。

 残念ながら、そこから先は経験がモノをいう。実際に治療し、経験からどの程度の治療を行い、何から優先して治していくか決めなければいけない。


 俺も横で話を聞いてみたが、どこをどう診察したから下痢になりかけと判断できたのか、全く分からない。

 こればかりは、観察眼と知識の積み重ねが無いと話にならない。


「千人かそこらの症例を見続ければ、誰でもそこそこの判断は出来るようになると思いますけどね。

 ですが、そこから先が見えるかどうかは、完全に個人の資質です。中には一万人を診察しても学べない人だって居るわけですから。

 ああ、君。水を持って来てくれ(たま)え」


 ジンは雇った(・・・)助手の少年に水を持ってこさせ、のどを潤す。


 なんとなくジンの人体実験でもされていそうな立ち位置に助手という人が居るが、さすがに仕事をいつまでも一人でやらせるというのはよろしくない。

 俺は妥協というか、常識的な判断というか、そういった「仕方がない」という判断により、ジンに医療の手伝いや会計事務などを任せる人を雇う許可を出す羽目になった。

 おかげで助手の少年以外にも、受付担当や会計事務担当などの名目で、5人がジンの部下になった。



 分かっているのだ。


 彼らはジンに助けられた者の家族や友人などで、病気と闘うジンへの純粋な感謝の気持ちを持っている事が。

 ジンの知識と技術を学び、自分も人を助け、次の世代へ伝えていこうとする気概がある事が。


 本当に人助けをしたい。

 専門的な知識など無くても、その力を持っている人を支える事なら出来ると、自分にできる精一杯の努力をしている。

 そんな思いを持っている人たちだと。



 ジンの暗殺者としての側面など知りもしない彼らは、このままいけばジンが暗殺者と知っても付いていく人材に育っていくだろう。それ以上の人助けをする為だからと。


 何と言うか、罪悪感が凄い。

 騙されている人たちにそれを教えるわけにはいかない状態というか、なんとも言えない状態はかなりキツい。


 こうやって人は沼にハマっていくんだろうなぁと、そんなふうに思えてくる。





 俺はジンが人助けをする傍ら、そんなことを考えていたが、1月もしないうちに「そのうち言って来るだろうな」という話が舞い込んできた。

 美濃の国から、ジンへの召喚状が届いた。

 医療知識を広めるため、協力しろとの命令(・・)である。

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