9-13 疫病対策②
もともと知識チートなどできるほどの知識を持ち合わせていない俺の場合、薬を作ることができても、その製法を広めることができない。
カード能力は根っこの知識をすっ飛ばして結果を出すタイプの能力であり、その過程となる部分をどうにかする手段が無いからだ。
強いて言うなら、出た結果から過程を逆算するという、リバースエンジニアリングの手助けをするぐらいが限界である。
「薬の解析はできました?
俺の渡したサンプルを解析する分には一向にかまいませんし、コピー品が出回る手助けにはなると思うんですけど」
「そういった事には、本当に頓着しませんね……。
とりあえず、薬物を解析するなどというのは、相当な専門知識があっても無理です。というか、アレ、どうやって作っているんです? その制作過程を見せていただくのが一番の近道と思うのですが」
「あはは。さすがにそれは許されていませんので」
もっとも、機械部品などであればある程度の解析と再現が可能でも、薬物に関してはかなり難しいと言わざるを得ない。
何を原料にしているのか、どうやって薬効を抽出しているかなど、そういった情報が出そろっていたところで簡単に再現できないのが薬物だ。
ぶっちゃけてしまえば、俺の能力で作る薬は、文字通りのチート品なのである。
チートは、努力などでは再現できないのだ。
そうしていくつか話をした後、いつものように回復薬を納品し、席を立つが。
「そうそう、そろそろついてくると思いますけど、やっちゃって構わないですよね?」
「そう、ですね。ええ。外の出来事にまで、我々は関与しません」
最後に、お外でオイタをする事に関して、一言だけ告げておく。
署長さんは頭が痛いといった風であるが、俺がやる事に関してみて見ぬふりをしてくれるらしい。
実際、何があったかを詳しく調べる余裕など無いだろうし、その決定的な証拠を手に入れるためならこちらの事情に巻き込まれる覚悟が必要になる。
そこまで踏み込めば、もし何かあった時に俺と心中するぐらいの覚悟が必要になるので、まだ人間社会の側に立っている署長さんは踏み込む事は無く、今の場所で得られる利益を守る事を選んだ。
非常に慎重で臆病で、賢い選択だと思う。
そうして本当に署長さんとの話を終えた俺は、まっすぐに家を目指さず、わざと大回りをするように移動した。
普段であれば揖斐川を越え北東に向かうのだが、北西の方に動き、山道を行く。
その途中で、俺は急に加速し、姿を消すように動く。
まだ太陽が天にあるような時間帯であったが、そこはすでに森の中。辺りは薄暗く、視界が利かない。追跡者たちは俺の姿を見失い。
こっそり配置しておいた弓兵に射抜かれ、全滅した。
「主様。全て殺し終えました」
「二重追跡の様子はありません。この者たちだけが追跡者と見て間違いないでしょう」
「うん。ご苦労様」
これぐらい派手に動いていれば、後を付けて俺の家を探し出そうという人間がいた所で不思議はない。
そろそろ湧いて出てくるだろうなと思っていたので罠に誘ってみたが、ものの見事に引っ掛かった。
馬鹿じゃないかと思ったが、世の中にいる連中は誰もが賢いわけではない。こんな間抜けを晒す奴がいた所で不思議でもなんでもない。
こちらとしては、こいつらの後ろにもう一組ぐらい居るんじゃないかと思っていたんだけどね。そこまで手間をかける事はしなかったようだ。今も後方を警戒させているけど、そちらに引っ掛かる人影もない様子。
「創様。相手の所属などの確認はしなくても良いのですか?」
「下手に知ってしまえば動きにくくなるよ。知らなくても問題は無いかな、たぶん」
なお、背後関係を知るつもりはない。
夏鈴は知っておく方が打つ手が広がると思っているけど、俺は知らずにいる事を選んだ。
広げる手の分だけ、余計な労力が必要になるからね。
それならいっそ、知らずにいて、目の前の対処だけの方が手間が少ない。
生かして聞き出す情報って、フェイクが混ざるからね。事実確認とかそんな面倒な事をしてまで、「誰の依頼で動いたか」なんて聞きだす意味を感じないのだ。
これでカードにして嘘を言えなくしてから聞き出すという手段が採れるならそうするんだけどね。今の俺は、殺した後にカードとしてストックしておくぐらいなんだよ。
手に入った『ヒューマン・スレイブ』のカードは、何かの実験にでも使おうかな。
最近はゴブニュートも合成で増やさなくなったし。ヒューマン系カードの使い道も減って来たんだよなぁ。
頑張って、暗殺者にでもしてみようか?
いや、何となくだけど、そのうち必要になる気がするんだよ。