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9-11 難民の余波

 現代日本でも難民問題は非常に繊細な話だった。

 馬鹿な自称知識人は、日本ももっと積極的に難民を受け入れるべきだと言っていたが、それが愚策でしかない事は欧州が証明していた。


 ぶっちゃけてしまえば、国を預かる人間はまず自国がちゃんと成り立つ状況を作らないといけないので、難民を見捨てるのは正しい事なのだ。

 人道的とか、そういう話は、まず自国がしっかりと立てる程度の余裕を持ち、その中にある余力でのみ行うべきだ。

 そうでなければ、難民を受け入れた場合、難民ごと国が駄目になってお終いとなる。



 余力の定義をどう設定するかは議論の余地があるが、余力以上に他人を助けようとしてはいけない。

 それだけは疑いようのない事実である。





「神戸町はずいぶん持っていかれたんですね」

「ああ。おかげで、また家畜を飼う余裕がなくなったよ」

「世知辛いですね」

「ああ。世知辛いな」


 周辺国家の動きが読み切れないけど、俺はタイラントボアが召喚できるようになったら、越前にあるであろう、ディズ・オークの前線基地を叩くことにした。

 一ヶ月前には移動を開始し、現地の情報を集めつつ状況を確認したら、タイラントボアで場を荒らせるだけ荒らして即座に逃げるという作戦を立てた。完全に脳筋プランである。


 で、それまでは薬を作ったり、戦力を整えたりして時間を潰すことにした。

 タイラントボアのリキャストタイムはまだ半6ヶ月のままだ。すでに2ヶ月が経過しているので、あと4ヶ月はフリーである。

 その時間を有効活用するため、今は久しぶりに猪狩りをして、神戸町で羽を伸ばしている最中だ。



 かなり顔を出していなかった神戸町だが、町の雰囲気は全体的に暗かった。

 と言うのも、越前からの難民を食わせるために、神戸町からはかなりの量の食料備蓄を持っていかれたからだ。

 それを教えてくれたおじさんは、他の町の数倍は持っていかれたと嘆いていた。


 俺の持ち込んだ作物により、神戸町の食料備蓄は他の町よりかなり多かった。

 その余力で家畜を殖やそうと画策していたのだが、昨年はタイラントボア、今年はディズ・オークと、立て続けにアンカマーの被害で計画がとん挫している。

 もはや呪われているかの様である。


「そういやぁ、ここの米や蕎麦は育ちが良いって言うんで、余所でも育てるってお偉いさんが言い出したもんだから、種籾まで持っていかれたよ。

 ウチで食う分を作付けするぐらいは残ってるけど、畑いっぱいに、ってのは難しいなぁ」


 何か他のモンでも育てないとなぁ、おじさんは肩を落として嘆く。



 それなら、と俺は一つ提案をすることにした。


「この間、良い感じのカブを見付けたんですけど、育ててみますか?

 時期がアレで俺もまだ育ててないですから、そんなふうに育つかは知りませんけど」


 そう言って、俺はポケットから何かを取り出すフリをして、カブの種をカードから用意してみせた。

 例の如く、育ちが早く栄養価の高い物に育つよう強化した品種である。作ったのは俺ではなく莉奈だけどね。



 カブは救荒作物と言われ、戦中に良く育てられた作物であるらしい。

 いつものように内緒で育て、こっそり町で消費する分には問題無いだろう。


 そのうち広まり過ぎて隠し通せなくなるだろうけど、俺は作物の作付面積など細かい制御をする気が無いので、バレた所で構わないという気分でこういう事をする。

 実際、今までにも米やら何やらを放出しているが、それで何かあったという事は無いので、気楽なものである。


 そのうち痛い目を見るかもしれないが、それよりもみんなが助かる方が優先だ。



 どうせだから、山の方に山菜でもばら撒いておこうか。

 そうすればみんなの食卓も多少はマシになると思うし。

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