9-7 エルフ難民②
「構いませんよ。食料の備蓄分をお出しします。運搬にも人手を出しましょう。
とりあえず2万食分ならすぐに用意できますし、まずはそれだけ納めるという事で」
ああ、そうだ。食料だけじゃ駄目か。
白石さんらエルフは着の身着のままで逃げてきたので、衣類や生活雑貨も渡した方が良いだろう。
あとは……ディズ・オークに攻められたことを考えると、薬も用意しないと駄目だな。
「それと、衣類や食器、生活拠点を作るのに使えそうな道具も必要ですよね。失念していました。
古いものが多くなりますが、出来る範囲の支援はしたいと思います。
それと、こちらにもディズ・オークが流れ込んできました。
幸いにも数が少なく被害は出ていませんが、厄介な感染症をまき散らす連中でしたので、そこには苦労させられましたよ。
今は対策となる薬の開発も終わりましたので、必要とあれば用意いたしますが、どうでしょう?」
ここまで一気に話を進めたが、言われた白石さんは硬直し、何を言えば分からない様子であった。
時間を無駄にすることもない。
俺は夏鈴に声をかけ、物資の準備を先に進めさせる。要らないと言う事は無いはずだ。
「その……そこまで余裕があるのですか?」
「ええ。ここは良い場所でしたからね。食料生産にはかなりの余裕があるんですよ」
なお、食料2万食というのは1食0.5kg換算で1tぐらいだから、このあいだタイラントボアが1回の食事で食べた量と変わらない。2体いて2回食べたから4t消費したわけだね。
うん。比較対象次第ではそこまで凄い量ではないと思う。実際はたいした量なんだけどさ。
なお、食料については10t以上の備蓄があるが、ほぼ全部カード化しているので倉庫に積んであるという訳ではない。
普通に保管すると、ナマモノは傷んでしまうからね。場所もとるし、良いことなどない。
お酒にしない穀物や過剰生産になった野菜・果物・肉類は全部カードだよ。
「それと、薬というのは?」
「病気になった者から作った血清を、こう、ちょいちょいっと」
「大丈夫なのですか?」
「うちの者には効きましたが、エルフの方々にも効果があるかは不明です。
ただ、何もしないよりはマシだと思いませんか?」
薬は現地に攻め入ったとき、必ず要るからと、かなりの数を用意してある。
神戸町に渡した分とは別に、かなりの数を作ってあるのだ。
薬そのものの☆は2つなので、増やすのは簡単である。今では箱詰めしてまとめて増やせるし、いざとなれば魔法治療も可能。
エルフに支援物資として渡しても、負担にならない。
「なぜ、そこまでしてくれるのです? 我々は、貴方たちに何もしていないというのに」
「そうですか? 長年、アンカマーの侵入を防いでいたというのは誰もが認める充分な助けだと思いますよ。
それに、約束を守ってくれる人とは仲良くしようと決めているんですよ、私は」
ここまでの問答で、白石さんは泣きそうな顔をして俺に疑問をぶつけてきた。
まぁ、そうだろうね。
俺自身、余裕があるから手を差し伸べているという部分が大きいけど、ここまでするのにもっと別の、相応の理由が欲しくなるのは仕方がないと思う。
不審といった様子ではなく本当に分からないといった表情なのも、助けたくなるポイントである。
変に頭の回る奴だと、こちらを警戒して無駄な労力を使うんだけどね。
なので、相手が受け入れやすそうな理由を持ち出し、個人的な在り方として助けたいと思っていることをアピール。
もしもこの場に知らない連中を連れてきていたら、ここまでする気にはならなかったのは、本当。
白石さん側の事情は知らないけど、誠意を見せる相手に冷たくする理由は無いし、友達付き合いは多ければ多いほどいざという時に助かる。
こっちがどこかから攻められ逃げるときに、エルフの里に逃げ込めるかもしれないのは、結構大きいと思うわけだよ。
なので、今は恩を売られてください。
故郷を取り戻す手伝いをするから、ちゃんとお仲間共々元気になってください。
打算が無いとは言わないけど、周りの皆が幸せな方が、いろいろと楽なんだよね。