9-6 エルフ難民①
アホのことはどうでもいいんだ。
ああ、国だったか?
俺たちが北征をする間、邪魔をしないというのであれば何も問題ない。
尾張の国はそれで脱落するだろうが、まだ美濃の国や近江の国といった、他の国もある。戦国時代なら加賀や飛騨、若狭の国もあるな。
そちらがまともな思考をしていて、尾張からの人的支援を諦め物資をよこせと言って、自分たちだけで越前の国に行く可能性はある。油断は出来ない。
あくまで南で内乱があったというだけだ。
しかし駿河の国の、駿府の連中がどんな絵図を描いて行動を起こしたのかは、少し気になる。
下手をすればアンカマーの手先などといって、周辺各国から攻められるネタになりかねない行動だからだ。
「創様。人間同士の戦争はあまり行われていないようですよ?」
「一回現代を経過したからかな。戦争そのものを忌避する感情はあると思うんだけど。
けど、そのリスクは頭の片隅に置いておくべきじゃないかな。もしかしたら、今の尾張の代表を知っていて動かないと踏んだ可能性もあるけど、全員がそうだとは思えないし」
夏鈴は人間同士で争う愚を考え、俺の言う未来に否定的な反応をする。
集団になった人間が「赤信号、みんなで渡れば怖くない」と言い出すことに納得できない様子である。
そこは追々学べば良いと思うけど、大垣の件を忘れてないかと心配になるわけだよ。
「個人の暴走と国が動くのとは、また違うと思うのですが?」
まぁ、そういう考え方もあるね。
あの時は国ではなく個人レベルの暴走で、国としてみれば自浄作用が働いていたし。まともな人もいたし。
どちらにせよ、他の国の動向が掴めないうちは動かないよ。
そんな事を考えていたら、エルフ御一行がうちにやってきた。以前やって来た、白石さん達である。
「お久しぶりです。その説はお世話になりました」
「白石さんもご無事で何よりです。越前からモンスターが大量になだれ込んできたときは、どうなることかと思いましたが」
知り合いということで、軽い挨拶をしてから用件を聞くことにした。
「まず、今回ご相談したいのは、食料の件です。
知っての通り、越前方面はアンカマーに屈してしまったため、私どもも村を放棄し、こちらに逃れてきました。しばらく食いつなぐことは出来るでしょうが、それでも冬を越せるとは思っていません。
そこで、以前薬草の件で手を煩わせた上に恥を重ね申し訳ないのですが、食料を融通して頂けないでしょうか?」
白石さん御一行は、前回来たメンバー以外を連れていない。
この場所は秘密という約束なので、他のエルフは別の場所にある難民キャンプに置いてきたらしい。
白石さん、約束はちゃんと守る人だね。
そう思うと、俺の考えは一つである。
「いいですよ。足りるかどうかは分かりませんが、出せる分は出しましょう」
それぐらいの人道的支援はしてもいい。
うち、食料にはかなり余裕があるからね。