9-5 内乱②
例えば戦乱続く国があったとする。内乱により地方領主が争う、戦国時代のような国だ。
そんな国に外敵が現れ、戦っていた国が一つにまとまり、一丸となって抗う。
それはぶっちゃけ、おとぎ話の世界でしか無い現象である。
人間同士のそれの場合、正解は「外敵と手を結び国を内側から食い荒らすシロアリになる奴が現れ、状況が更に悪くなる」である。
外敵に抗うために国をまとめようとする領主は現れるだろう。しかし、そんな国が主導権を取れるかどうかはまた別の話なのだ。
結局、人間は賢くない。
基本的に人間は感情論を優先する馬鹿なのである。特に、国という単位で考えるならば。
数が多ければ多いほど理性から外れた行動をとり、国のトップがそれを押さえつけられるほどの強さを持たない限り、常にアホなことをする。
だいたい、俺の覚えている「人間の国」とはそういうものだった。
「これを機に、切り取りを実行したのでしょうね。
ええ、ここで尾張と駿府が争えばアンカマーのいいようにされる。ですから、今なら一度限りでしょうが切り取り自由とばかりに行動に移したのでしょう。
何度も行えばさすがに尾張もそれ相応の対応をするでしょうが、一回限りであれば見逃される可能性は低くありません」
「んー。いや、尾張は報復に動くと思うよ。一回限りでも許されると思えば、また次があるだろうし。
ここは一発ガツンと反撃を入れて、二度とこういう事が起きないように動くんじゃないかな」
「……その場合、越前の復興が相当遅れることになりかねません。一度越前を平定して――」
「その間に実効支配されたらどうにもならないからね。先に駿府を叩くんじゃないかと思うわけだよ。
夏鈴。尾張の国が面子を重要視して、その後の展開を理性で考えずに感情のままに動くとしたらどう動くと思う?」
「創様の言うとおりに動く、でしょう」
「そんなものだよ、現実なんて」
今後の展開を夏鈴と2人で話していたけど、夏鈴は理性的で日本全体の効率を重要視した、そんな展開を予測していた。
俺は完全に感情論を中心にした予測で、尾張が自国だけを優先すると言い切った。
俺たちの意見は綺麗に別れたわけだけど。俺は断言するね。俺の予測の方が正しいと。
尾張は越前を無視して駿府に攻め入ると。
“尾張だけ”を考えれば、その方が効率が良いのは間違いないしね。
真面目な話、早い段階で越前に攻め入り、アンカマーを一掃するのが日本全体を見たときの"最善”だ。そこは疑いようもない。
時間をかければ相手は態勢を整え、こちらに攻めてくる。
攻め込んだときと攻められたときの被害については、攻め込んだ方が有利というのは間違いないんだ。自国の国土が荒らされる展開に持ち込まれるのは絶対に避けたいだろうし。
それに、早い段階で攻め入った場合、まだ生き残っている人達がいれば彼らの協力を取り付けることが出来る。地の利を活かし、より有利に戦局を動かせるだろう。
しかし、だ。時間をかければ相手は防備を整え、自ら打って出る事すらあり得る。
占拠された土地は平定され、生き残りもいなくなってしまうだろう。そうなれば復興が遠のくのは間違いない。人は簡単に増えないのだ。普通なら。
時間をかけて有利になるのは敵の側であり、人間側では無い。それは断言できる。
尾張の国にも言い分はあるだろうが、越前の国は近江や美濃の国が間にあるので、すぐには直接的な被害が出ないというのも大きい。
それに複数の国が動くのであれば、用意する戦力や負担の比率も問題になるだろう。
利害関係の調整など、簡単にできることではない。
残念ながら、越前の国は酷いことになるだろうね。誰もがすぐには助けないだろうから。