8-21 北からの侵入者⑧
砦の少し前、2kmほど離れたところに敵は布陣した。
そして、出てこない。
俺たちの相手は単なる抑えであり、本隊が神戸町など大きな街を落とすまでの時間稼ぎと割り切っている様子である。
「まぁ、ここが隠れ里とか、そんな事を相手は知らないからなぁ。ここから援軍を送られないようにするだけが目的か」
実際は所属が違い、これで被害が大垣だけで済むならオークぐらい無視するような俺とはいえ、仲の良い人たちの居る場所にまで敵が攻め入るのが確定と思えば、確かに援軍は送るんだけどね。
こちらの心情など理解する気も無いような連中なので、どうでもいいと言えばどうでもいいんだろう。
俺としても、布陣し長居されるだけで不快な連中なので、とっととぶち殺す気でいるのも、相手を理解する必要の無い「害獣」認定をしているからだ。
こういった部分において、人間種とモンスターは相容れないという話である。
会話ができるなら和平という道も考えられるが、攻めてくる上に言葉が通じないので、殺し合いは必然である。
襲いかかる蛮族は駆除一択である。
そこに慈悲は無い。
敵が1kmも先に布陣したことで、敵を目視するのは難しくなっている。
人間の視界は5kmぐらいと言われているが、砦をバレなくするために木々を残しているので、視界が遮られるのだ。
一部は凛音の炎で焼き尽くされたが、さすがに全てを焼き払ったわけでは無いのだ。
櫓という高所を抑えているこちらが有利に思えるが、相手には左右の山という観測地点がある。
監視能力において、こちらが一方的に有利という話は無い。迎え撃つ側が有利と、それぐらいである。
こうなると、遠距離攻撃手段の「射程」が有利・不利を決める。
「正面からバリスタをぶっ放す、それだけの仕事だよ。
打ち終わったらその場で破棄。回収はカードに戻すだけだから、離脱はオーディンに任せる」
「普通に持ち帰っても構わないが?」
「それだと多少でも離脱の速度が落ちる。安全を最優先でいこう。
それに、オーディンとかごく少数の大狼を投入するけど、そこで数が揃えられないからね。これぐらいの牽制でちょうど良いんだよ」
こちらは弓兵を1人、オーディンに付けて嫌がらせをすることにした。
奴らがいるだけで病原菌の散布という恐怖がある以上、いつまでもにらみ合っているのはこちらにとって不利になることだし、早い段階で追い返したい。
その為には、相手からこちらに攻めてきてもらう必要があるんだ。
正面から攻め入ってしまえばこちらが不利なんだから。
「この仕事は2回行うつもりでいて欲しい。それ以上は対策をとられるだろうから止めておく。
――諸君らの奮闘に、期待する」
「はい!」
最後にネタ台詞を混ぜて自分の緊張を少し緩和する。
どうせ皆には分からないから、場の雰囲気を壊すことも無いよね。
ただ、まぁ。
「諸君らの奮闘に、期待する」は今後も他の誰かが使うなど、俺の黒歴史として皆の心に刻みつけられてしまい、俺は聞く度に悶えることになるのだが。