8-20 北からの侵入者⑦
俺たちはわりと普通に勝てた『タイラントボア』だが、あの時の勝利にはいくつかの条件が重なっている。
まず、まだ子供だったこと。
召喚できるようになったタイラントボアは、戦ったときの5割増し。
体がそれだけ大きくなったことを考えると、あれぐらいの体ではまだ子供だったという事だ。
大人と子供では、大人の方が強いのはほとんどの生き物で言えることだろう。
使える毒があったこと。
毒が即効性で、しかもすぐに体に不調をもたらす凶悪なものだったから、あれだけ簡単に勝てたのだ。
これは毒を提供してくれた宿屋の方々に反射するしか無い。感謝では無く、反射である。
いつかあいつらの口の中にねじ込んでやろう。
後は単純に、凛音が強かった。
あの毛皮は物理・魔法ともに高い防御力を持っている。それを貫ける魔法使いがいなければ、かなり厳しい戦いになるのは容易に想像が出来る。
魔法攻撃特化の凛音が居なければ、子供だろうとタイラントボアを易々と倒せることなど無かっただろう。
そして奴らにとって最悪な条件が一つ。
俺というブースターが居ること。
「前回の仕事の分もある。全部食ってくれ。
ああ、肉よりも野菜とかそういうのを食いたいんだな。分かった。出そう」
俺はタイラントボアに大量の食事を与えることにした。
この体格から言えば、1体につき100kgだって小食だ。1tは用意しないといけない。
村の食料1月分はあっただろう食料が、一気に食い尽くされた。
「あっちの方にいる、ディズ・オークって連中を潰したい。病気持ちの連中なんだが、頼めないか?」
米に麦と蕎麦、ドングリや根菜類。あとお酒。30分もかけずそれらを食い尽くしたボア2体は、そこそこ機嫌が良さそうになった。
そのタイミングで俺は“お願い”をして、戦って貰えないかと内容を説明した。
2体は静かにそれを聞き届けると、「戦った後、もう一度飯を用意しろ」そんなことを言いたげに、鼻先で食い尽くした食事の跡を示した。
「ありがとう!」
俺はボアたちに感謝し、もう一つの切り札、長時間に渡り体を回復させる効果を持つ『リジェネレート』の魔法を使う。戦って貰えないなら自分たちに使う気だった魔法だ。
これなら長時間の戦いにも耐えられるはずだ。
ボア達は鼻先を敵地の方へと向け、敵の存在を認識した様子。
そうして敵に向けて2体並ぶと、一気に駆け出した。
俺が見える範囲のトップスピードですら時速に直せば100kmはかるく超える速度で、F1か何かのようである。
木々をなぎ倒しながら走っているというのに、傍若無人、全く関係無いとばかりに走り抜けていくのを見ると「よく勝てたな」と、そう思わざるを得ない。
山の起伏で2体の姿はすぐに見えなくなった。
「じゃあ、俺たちも砦に向かおう」
あっちは、任せた。
だったら、こっちで俺たちは頑張ろう。