8-19 北からの侵入者⑥ タイラントボア再び
こういう時は、一回状況を整理し、先の展開をいくつか予測してみよう。
まず、状況としては朝一で敵が部隊を別けて進軍している。
俺たちの村に500と、神戸町方面に4500だ。
敵の目的は不明。
人間を駆逐しつつ先へ先へと進んでいるのか、それともこいつらは単なる“嫌がらせ要員”で5000を捨て駒に日本の内陸を病気でダウンさせようという作戦かの2種類が考えられるけど。
病気をまき散らすというディズ・オークの特性的には人間を支配という事は無さそうなので、たぶん後者が正解と見ている。推測で確証は無いけど。
とにかく、早く駆除しておかないと、周囲が病原菌で汚染されてしまうかもしれない。
俺たちが目の前の500をどうにかした場合、おそらく明日になるであろう神戸町の戦闘には参加できないと思う。
移動時間とリソース上の問題があるので、無理は出来ない。
その逆も同じで、神戸町側に参戦してもしも相手が手薄な砦を攻め始めたら防ぎきる事が出来なくなる。相手の500というのは、そういう数なんだ。
俺たちがまともに戦えるのは1回だけ。ならば村を優先するしかない。
そう思っていい。
じゃあ、まともじゃない方法なら?
そう考えると、打つ手が無いと言うわけでもない。
『タイラントボア』だ。
こいつを2体召喚できるので、2枚ともここで使い、ディズ・オークの4500にぶつける。
問題はこいつらが切り札級のカードというのと、普段からまともに使っているわけではないので、ちゃんと働いてくれるか疑問が残るという事。
信頼関係を構築できるほどの出番が無いのだ。切り札だけに軽々しく使えるわけでもないから。
俺は少し考え、タイラントボア2体の投入を決めた。
他に手は無さそうだし、無駄に迷いモタモタしていればそれだけ神戸町への被害が大きくなる。
ボアに直接戦闘をさせたらボアが病気にかかりそうだが、そこは俺も手伝い、病気にならないように手を尽くそう。
俺がタイラントボアを召喚できることがバレるかもしれないが、そこはもう飲み込むしか無い。
俺の周囲が煩くなる程度で友人の命が守れるなら、構わない。
死んだら終わりなのだ。やるよりやらない方が後悔は大きいだろう。
周囲が煩くなるのはそのうち沈静化するかもしれないが、誰かが死んだらもうそこでどうしようも無いんだから。
どっちも嫌だとワガママを言っても事態は好転しないんだ。
「≪召喚≫『タイラントボア』」
久しぶりの、タイラントボア召喚。
今度は2体なので、かなり迫力がある。
「悪いが、かなり厳しい仕事だ。まずはこれを食いながらでいいから話を聞いて欲しい」
前回タイラントボアを召喚した時はなんの報酬も与えずに送還したからね。
まずは前回の報酬として大量の美味い肉を食わせ相手の機嫌をとってから、俺は“お願い”をすることにした。
なんとなく、“命令”には反発されそうな気配があったんだよね。確証は無いけど。