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8-18 北からの侵入者⑤

 遠距離でチマチマ削れば良い、そんな都合のいい話はない。

 もしもそうするのであれば、逃走ルートを整え、誘導先に隠れ家を用意し、外部の協力を取り付け、後はどれだけ地の利をいかせるかという話になる。

 準備する時間が全く足りない。


 悲しいかな、俺は近辺の地図を作るという事をしておらず、こういった時にどう敵を誘導すれば、どのように戦えばよいかなどとは考えていなかった。

 最悪、皆を連れて適当に逃げ込めばいい、俺たちが住める島でも探そう。その程度に考えていたのだ。



 だけど、こう、追い詰められて、逃げたくないという気持ちが思っていたよりも強い事が分かった。

 一から作り上げてきた家や村の、土地への執着。

 ちょっと離れたところに住む友人達。


 ここで戦わなければいけない理由をこれまで積み重ねてきて、大軍に立ち向かう。

 自分たちの命を賭け金にしない程度に、安全を大きめに確保して、だったが。


 それでも、“俺”は“ここ”で戦うと決めた。





 偵察部隊の各個撃破は、行動を開始した太陽が沈み始める頃から再び昇るまでの間に、3回ほど成功した。



 砦を襲った連中は、100体のディズ・オーク。

 手を出せなかったがそれと同規模の集団をいくつか見かけたので、3000というのはあの場にいた連中に限った話で、総数としては5000近いかもしれない。


 そういった大きい偵察部隊ではなく、10人程度の小規模な偵察部隊も派遣されている。

 おそらく用途が違うのだろう。


 砦に来た連中は、敵対勢力があれば交戦して、戦力を調べる目的を与えられているのだと思う。

 そして小規模な偵察は自分たちの本体を守るための警戒網の役割を担っていると。

 これが俺の立てた予想である。



 ならば少数を一度削り、それに気が付いた連中の動きを見てもう一度、二度と叩き、三度目の成功を成し遂げた後は様子見をした。

 何度もやればさすがに相手も警戒するし、対策を立てるだろう。

 軍として統制の取れた動きをする事を考えると、それぐらいの事が出来る頭はあるはずだ。何度だって成功すると考えるのは馬鹿だと言っていい。


 ……ほとんど人間の軍を相手にしているように思えるのが気分最悪だ。

 こいつら、ユーラシアにデカい国でも作っているんじゃないだろうか。「神風、仕事をしろよ」と居るかどうかも分からない神様に文句を言う。



 実際、俺ではなく夏鈴が敵の動きを調べた結果、奴らは偵察部隊が狩られたときの為に、偵察部隊という名の()と、それが襲われた事を本体に知らせる本物の偵察部隊(針と糸)襲撃者を強襲する(釣り上げる)騎兵(竿)を編成していたらしい。

 四度目は分からないが、五度目になれば俺たちは捕捉され、囲まれて殺されていたかもしれなかった。





 俺たちが夜間にチマチマ動いたからか、翌朝、敵の動きは鈍かった。

 俺自身が眠かった事もあり昼近くまで休憩していたのだが、それでも奴らはまだ動いていなかったのだ。


 その事に一定の達成感を感じていると、敵は部隊を二つに別け、500ほどを俺たちの村の方に残りを神戸町の――ただしその前に糸貫や大野といった村がある――方角に向けて進み出した。


「私達の村は、500もあれば封じ込められる。そう思ったのでは?

 砦の規模などを考えれば、攻める事を考えず、抑えるだけなら簡単と思われているでしょうし。本体が何を目的に軍を進めているかの方が重要かもしれませんが」


 敵の動きを、夏鈴はそのように予測する。



 厄介だなぁ。

 各個撃破と言えるほど500は少なくないし、手を出したくない。

 相手の動きは俺たちを主眼に据えればほぼ完璧と言っていい。


 あの500を無視してしまえば村が襲われるかもしれないし、俺たちの動きはどうしても鈍る。

 4500もの敵を相手にどこまで有効な行動が取れるかなんて分からないものに博打はしたくない。



 軍の分割は愚策で各個撃破されるだけ、というのは状況次第でしかなく、この場合は正解だったという事だ。

 戦力の分かっている相手を牽制し、未知の相手に全力を注ぐ。


 俺たちの足止めがどこまで有効かは知らないけど、敵の進軍ルートには2ヶ所ほど底なし沼を設置してきた。

 底なし沼が少しは頑張ってくれますようにと、俺は天に祈るのだった。

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