8-17 北からの侵略者④
病気・毒対策をもう少し頑張るとして、周辺偵察をしていた仲間から、敵の本隊があると告げられた。
その数、おおよそ3000。
シャレにならない大軍である。
そんな大軍が越前方面に向かう街道で野営をしていたというのだ。
「大垣の方に連絡するか。さすがに、これは無視していい状態じゃないし」
俺は感染対策で出歩かない事よりも、早くディズ・オークの大軍が押し寄せていると告げる事を優先することにした。
もしも気が付くのが遅れれば、壊滅的な被害が出る。
もしかしたらすでに連絡が行っているかもしれないが、それならそれで無駄足になった事を喜ぼう。最悪なのは、準備する間もなく攻められる事である。
連絡すると決めたとはいえ、俺が直接向かう必要は無い。
俺はモヒカンを召喚すると、書簡を渡し、大垣へと向かわせた。
敵の数と質、現在地など分かる範囲で伝えておく。
他にできる事として、敵の偵察兵を削っていくことにした。
魔法使いを多く擁する俺たちでも3000もの大軍には勝てないだろう。真正面から戦うなら。
だったら非正規戦でチマチマ削ってやるだけだ。
夜襲は反撃が怖いのでやらないが、本隊から離れた少数部隊を狩るだけであれば何とかなるという目算だ。
あんまり敵本隊に近付き過ぎないよう距離を取り、そこで様子を窺いながら戦うとしよう。
「創様、可能な限り足止めをするために、こことここに底なし沼を配置しましょう。ある程度荷重がかかったら地表部分が崩落するようにすれば、より多くを殺せると思います」
「いいね。せっかくの底なし沼だ。やってしまうか」
ついでに本隊の足止め工作も行う。
あの規模の軍が進軍するなら人間なら1日10㎞から20㎞が上限だと思うが、敵が駐留しているここから神戸町はその20㎞圏内だ。
町が見えれば前日は休むと思うけど、それでも猶予が多く見積もって3日、現実的なラインは2日というのは何をするにしても余りにも短い準備時間だ。
みんなが逃げる時間ぐらいは稼ぎたいし、出てしまう被害が少しでも減ればいいと思う。
俺に自己犠牲の精神は無いけど、たまにしか会わない関係でも、友人連中を死なせたくないって気持ちならあるんだよ。
無理をしない範囲で、10でも20でもいいから本格的な戦闘前に敵を殺す。
これは命の取捨選択だ。
俺は俺の為に敵を殺し、だけど自身の命が奪われないよう無茶をせず、それで一人でも多くの人が助かるならばという自己犠牲は考えない。
お。
ちょうど神戸町方面からディズ・オークが戻ってくるようだ。
こいつらはここで皆殺しにして、情報を遮断しよう。
情報が封鎖されたら、1日ぐらいは進軍の再開が遅れないかな。