8-15 北からの侵入者③
敵は目に見える範囲で100体。
過半数が結構なダメージを負っている。
で、砦は隘路のど真ん中を塞いでいる。
迂回は可能だが、その時はこちらも一方的な攻撃を仕掛けられるので、砦から視認できる範囲での迂回は怖くない。
問題はこの奥に何かあると信じ、砦から視認できないどころか、そうとう山奥から回り込まれる事だけど。そんなふうにすべての可能性を潰そうとするなら衛星でも打ち上げて空から監視するしかない。不可能なのだ。
俺たちは、今できる事をやるしかない。
こちらにも有効射程というものがある。
魔法が届く距離が100mぐらいなので、まずはそこまで敵を引き付けた。
敵には分からなかっただろうが、こちらに向けて走り出した奴らの足元で咲いている白い花。
それが赤い花に変わったところが、俺たちの有効射程の目印だ。
「魔術部隊! 左右に分かれる敵を討ち漏らすなよ! 弓兵はバリスタで魔術師の援護! 魔剣・魔槍部隊はバリスタを引く手伝いを!」
「敵、中央に寄りました!」
「莉奈! 凛音!!」
「はーい!」
「任せて!!」
敵は防具を身につけていたが、こちらの攻撃力はそれ以上だ。
魔術師は『ファイアジャベリン』で敵を焼き殺すし、普通の弓よりも射程の長いバリスタで一方的に攻撃して数体まとめて体をぶち抜いて殺す。
それを左右に広がった連中に叩き込み続けると、敵の足が止まり、状況を把握した者から中央にまとまっていく。
それが俺たちの狙いと分かっていても、左右にいるものを先に殺そうとしている事が明白なら、中央に逃げてしまうのだ。死への恐怖に抗えず。
そうして莉奈が植物を操り足を止め、凛音の魔法が残敵をまとめて打ち砕いた。
逃げられても構わないのは、確かにそうなのだが、それでもこの場で叩き潰せるに越したことはないんだ。
逃げた先に知り合いがいるかもしれない。
逃げた敵が俺の身内を殺すかもしれない。
ならばここでより多くの敵を殺す事こそ、俺の為すべき事だ。
そう信じて作戦を練り、指揮を執った。
結果、敵はほぼ壊滅。
攻めてこなかったオークどもはそのまま逃げだし、攻めてきた連中は全滅させた。
逃げたオークは10に満たないので、脅威ではないだろう。
そうして敵を倒した後に気が付いたけど。
「夏鈴。あんまり考えたくなかったけど、あれが斥候で、本隊は別にいるとか、そういうオチは無いよな?
もしそうなら、越前が落ちたって可能性もあるんだけど」
「……可能性は、あると思います。いえ、その可能性が高いです。
あの規模の『ディズ・オーク』が現れ、怪我人もいたから敗残兵という予測もしましたが、怪我をしていたオークがただの使い捨ての駒でしかなく、こちらの戦力を把握するための捨て石でしかなかったとしたら。
生き残りを出したことで、こちらの情報が抜かれたかもしれません」
「なんか、前もこんな事があった気がする。観察している敵の前で力を見せて、こっちの底を測られるとか、そういう展開が」
「ありましたね。あの時は分かっていて力を見せましたが、今回はそういった事への配慮ができていませんでした」
あれで全部という保証がない事に気が付いてしまった。
そうだよなぁ。
戦力差を無視して突っ込んできたし、逃げた後ろにいたのは、もしかしたら督戦隊と軍監だったかもしれない。
これはちょっと拙かったか?
「死体の処置をしたら、周囲の偵察をするしかないかな。
あぁ、面倒くさい事になりそうだ」
空を仰ぐ。
雲一つない青空が広がっていたが、俺の気分は最悪そのものであった。