8-13 北からの侵入者①
追加で人を送ったわけではなく、いざという時の回収部隊。
念のために魔槍部隊を派遣することも考えたが、それをするとこちらの戦力が足りなくなるというよりも、あちらで戦力として狙われかねない方がよほど危険だから、戦闘職の部隊は派遣しない考えだ。
本当に、逃げに徹してくれればいいんだけど。
こちらがそんなふうにモヤモヤしていると、大垣の警察から手紙が届いた。
戦地への派遣要請ではなく、越前という戦地からの勧誘が、正式に取り消されたという内容だった。
『薬の納品が高く評価されました。単純に戦力として呼びつけるよりも、安全な場所で薬を作ってほしいというお願いですね』
回復魔法が使える人間というのは数が少なく、怪我人が増える事で戦力が足りなくなるというのはよくある事らしい。
俺は回復魔法が使えるけどそれは知られていないので、回復魔法よりも回復薬という判断がされたようだ。
これで俺を勧誘していた連中は全滅で、周辺国家からは完全にフリーな状態になった。
回復薬はそのうちエルフも生産するから、俺への勧誘がそのうち復活するかもしれない。
しかしそれはそれで回復薬を狙った連中が現れる可能性が高い事もあり、そのリスクを考えれば薬草や回復薬のレシピを独占しなかった事は間違いじゃない。
何事も思い通りに行くなんてことはない。しばらくは平和。
そう思えば、俺にしてはいい結果が出たと思う訳だ。
さて。季節は巡り、今は夏だ。
今年も夏はかなり暑い。
しかし今年は『千年氷河』という周囲を冷やしてくれる素晴らしいオブジェクトのおかげでごく一部の場所は涼しい。
この融けない氷の周囲はいつも人がいて、たまにエルダーが追い払っているぐらい、居心地がいい。
そんなに便利なら増やせばいいと思われるかもしれないが、それを村中に広げると、農作物に悪影響が出てしまう。
残念ながら、植物が育つには夏の暑さが必要なのだ。暑さにやられるのは俺たち動物だけである。
普通の氷なら毎日渡しているので、それで夜の暑さを凌いでほしい。
砦の周辺は少し開拓を進め、農地を広げてみた。
手間のかからない豆類を中心に、いざという時の足しになればいいという気持ちで荒地を畑に変える作物を育てている。
そうやっていざという時に備えるのだ。
また、砦の柵を一部は石壁に置き換えたり、バリスタ用の矢玉の備蓄を増やしたりと、着々と防備も整えている。
あとは砦を無視されないように、それ以外から侵入されないよう、森に大量の罠をしかけ始めた。
ここからしか大軍を送れないのは間違いないが、少数であれば砦を迂回し山を越えて村に攻め入る事も可能だ。
そうならないように、多少に仕込みは必要だろう。
イレギュラーを減らすため、俺たちでも二の足を踏むような危険地帯も作った。
底なし沼というと大げさだが、深さ20mの沼を用意するなど、わりとエグイ地形を用意している。
また、一部の地形を直ぐに再現できるよう、地形のカード化も行った。
底なし沼がいきなり現れるなど、やり様によっては楽しいことができそうだ。
……コストは重いけど。
こうした準備は無駄な労力、不要であった方が嬉しいのだが、やはり世の中は厳しい。
夏が終わり秋になる頃、今度はアンカマーの部隊と戦う事になった。