8-12 北の脅威⑥
フリーマン三人組から手紙が届いた。
日本海側に、傭兵として向かった三人からの手紙だ。
彼らが旅立ってからおおよそ2ヶ月。予定では1月に1度送るという話だったが、車も整備された道路も無い中で、大垣と神戸町のニノマエを通しての到着である。多少の遅刻は当たり前だ。
手紙の入った包みをよく見ると、封を一度開けた形跡がある。
そして小さく印字された「検閲済み」の文字。
中身は他の誰かに読まれたか。
そう思い、内容を確認すると――
「こりゃあ、日本脱出も視野に入れるべきかな」
「逃げた先までやって来ますよ。|アンカマー《海の向こうから来る奴ら》ですから」
「ああ、知ってる」
手紙には、一人が重傷を負ったと書かれていた。
守る範囲が広い事で戦況は厳しく、人手が全く足りていない。敵の数が多いため、どうして打ち漏らしが出たのか実感したという内容だ。
これからもそちらに逃げ出すモンスターが現れるという、嫌になる予想まで付いていた。
あとは出された蟹が美味かった、という程度。
状況が厳しいのは分かった。
ただ、俺たちへの要求などは一切書いていない。
検閲が入ることは告知されていたのか、俺たちの情報が推測できる記載は無く、向こうの様子を知らせるに留まっている。
俺はこの手紙に対し、追加の戦力を送る事はしないが薬などを持たせた人を送り出し、口頭で連絡を頼むことにした。
この程度の優遇はしてもいいだろうし、しておかないと後に響く。
元召喚モンスターだったあの三人は普通の人間と比べてかなり強く、そんな三人が大怪我をするような状況なら、できるだけ良い状態で戦えるようにしないといけない。
そのまま戦うにしても逃げ帰るにしても、体の状態が万全でないと、不覚を取りかねない。
気になるのは手紙が届くまでのタイムラグだ。
手紙が送られてから届くまで、けっこうな時間差があった。
これが届くころにもう一回、こちらが送った人が三人組に会えるまでにもう一回と、アンカマーと戦わねばならない状況が予測される。
残る二人は軽傷で済んだというけど……大丈夫か? 死んで、ないよな?
嫌な予感などは特にしないが、カードモンスターではない三人組だ。死んだらそこで終わりである。
遺体を持ち帰り、カードにしたところで生き返るわけではない。別人が召喚されるだけだ。
最悪手前の展開だが、大怪我をした三人を運んで帰る事まで視野に入れないといけない。
さすがに現場近くで大怪我を治すような薬がある事を見せるわけにはいかない。薬を使うにしても、越前からある程度離れるまでは我慢してもらう必要がある。
送り込む人員は、できるだけ力が強い人間を選ぼう。
間に合わない、いざという時は躊躇わないように言い含めておくが、回避できるリスクは回避するに越したことなど無いんだし。