1-4 ゴブリンの集落②/現地ゴブリンの生態
俺はゴブリンの集落全体を把握するため、一方向だけからではなく、全周から観察することにした。
幸い、ゴブリンの集落はそこまで大きくないので一周ぐるっと見て回ることは難しくない。
ゴブリンの集落を観察していると、いくつか不思議な点があった。
集落の人口もそうだけど、ゴブリンが持つにしては文明的な、オーパーツとまではいかないけど違和感を感じるアイテムが相当数見つかった。
それは主に金属製品で、武器の類はよく分からないけど、鍋などの生活用品は少なくない数があるように見えた。
そして、集落をどうやって維持しているのか、なんとなくだけどその一端を理解する。
「人間のところから、奪っているわけね」
ゴブリンの集落に、若い人間の姿が見えた。男女どちらもいる。
女性はお腹のあたりが大きく膨れ上がっており、遠目でも妊娠しているのが分かった。
ゴブリンを題材として扱う中で聞いたことのある、人間を使った繁殖方法。人間の男も捕えられていることから、ゴブリンは雌雄どちらも繁殖に人間を使う生体らしいと推測できた。
この世界のゴブリンは、人間を襲い、人を浚い物を奪い、食い物にする邪悪な生き物のようだった。
こいつらの食料源には人間からの略奪が大きく関わっていると思って間違いない。さすがに、合意でこんなことをしているとは考えたくなかった。
「繁殖力が強い」とカードの説明にあるから、酷い事になっていそうだ。
気持ち悪い。
この集落のゴブリンに対する第一の感想はそうだ。
俺は護衛として使っている夏鈴を見て、「こっちは大丈夫なんだがな」と心の中で思う。
ここで夏鈴にまで嫌悪感を示してしまうようでは今後を考えねばならなかったが、俺の中で身内のゴブリンは大丈夫という判定らしい。
種族というカテゴリだけでカードモンスターを差別しなくていい自分の都合のいい考え方に安心した。
言葉を変えると、ゴブリンの繁殖に関しては、雄ゴブリンではなく、俺とのそういう事が必要という話になるんだけど。
その事は、全力で頭から追い出す。性欲は溜まっているんだけどね!
この光景を見て次に考えたのは、ゴブリンを皆殺しにする大義名分を得たという安心感だ。
これでゴブリンが人間と共生する人間外知的生命体なら皆殺しにすることはただの悪だろう。非難されても仕方のない行為だ。
しかし、人間と敵対する邪悪な生き物であるなら、ただの害獣だ。殲滅こそ正義と考えていい。
ならば俺は、存分に力を振るうとしよう。
そしてこの集落のゴブリンを殺しつくそう。
その理由のほとんどは私的なものだけど、そこに人類のためという大義が追加されたのだ。
私的な虐殺に少し感じていた罪悪感も溶けてきた。
溶けてなくなるとまでは言わないけど、心はずいぶん軽くなった。
そんなことを考えるわけだが、ゴブリンの集落につかまっている人を助けるということは、今の俺にはできない。
彼らがどんな扱いを受けているかは分からないが、俺一人で50匹以上最大100匹はいるような集落一つをどうにかすることはできないのだ。
助けられない事に「俺は神様じゃない。できないことの方が多い」と言い訳しつつも、新しい罪悪感を抱えつつ、俺は家に戻るのだった。




