8-8 北の脅威②
砦の位置は、家から神戸町に向かう道半ばにある。
家から西に向かって進み、山間を通っていくのだが、道は南北に別れ、普段は南進して神戸町へと向かう。
北へと向かう道もあるのだが、そちらは飛騨地方。牛乳で有名な高原があったはずだが、今までそっちに人を派遣したことは無い。
飛騨高山を目指すなら、どちらかと言えば家より東に向かい、関市に近い武芸川を北進した方が良かったと記憶している。
高速道路が消えている今でもそうかどうかは知らないけど。
まぁ、この砦から北の道はタイラントボアがやって来た道でもあり、越前と大垣市を繋ぐ道の一つなのだ。
俺としては要警戒、監視下に置きた場所であると同時に、人間の行き来がある関わりたくない場所とも言える。
砦はちょっと山の方に意味も無く入ろうとしない限り見えない場所に作ったけど、他と比べればやや通りやすい場所を押さえている。
「村に人を送り込むならここを通るだろう」という場所を押さえたので仕方が無いが、砦は村への道しるべになりかねない。
交通の要所を押さえるという意味を、俺は甘く見ていたのかもしれない。
砦ができてしばらくして。
その日もいつものように黙々と仕事をしていると、狼に乗ったゴブニュートが俺の所にやって来た。
砦に配置していた魔剣部隊のゴブニュートだった。
「は、創様! 砦が人間に見つかりました!
今は砦の中に留め置いています。相手に戦闘の意思はありませんが、こちらの代表と話がしたいと言っています」
「あちゃぁ。好奇心を抑えきれない跳ねっかえりか、それともただの偶然か。
相手の所属は分かる?」
砦が見つかってしまった。
家や村よりも道に近く、分かりやすいので仕方が無いという気持ちがあったが、それでもこれまで大丈夫だったんだから、これからも大丈夫であってほしかった。
何事も、自分に都合の良いようには動かないという事だな。
バレてしまったものは仕方が無い、時間の問題だっただろうと気持ちを切り替え、相手の情報を聞く。
「越前の者だと名乗っています」
「俺の名前は教えていないよね?」
「はい。言われたとおり、“カイ”様が代表だと伝えてあります」
「良し。髪を染めたら移動する。相手の人数と姿恰好を教えてくれ。
夏鈴、移動の準備をするよ」
「はい、分かりました」
俺は創の名前が無駄に広まらないように変装したときの偽名を使い、来訪者との会談に臨む。
金髪ロン毛の格好はあまり好きではないが、いつか創の姿で気楽に街を歩けるようにする仕込みなので、手は抜かない。
相手の要求も何も分からない現状は、先手を打たれた状態だ。
ここから巻き返すのは難しいだろうが、それでも負けるわけにはいかなかった。