8-7 北の脅威①
建物よりも早くバリスタが完成したので、いよいよ俺が砦に関わる仕事が無くなった。
薬を納品しているけど、大垣だけではなく神戸町への移動も制限されているので、これといって大きな仕事という物が無くなってしまった。
村のみんなは忙しい。
しかし、これといってノルマを持たない俺は、やる事がないのだ。
これはかなり深刻な事態である。
「ぶっちゃけ、暇。
スローライフ希望とか言っている人とは相容れないなぁ」
魔力を消費してしまえばいよいよやるべき事がなくなるので、カードや魔力無しでやれることを増やさないといけない。
食材から調理して料理を作るより、ちょっとでも美味しい物を食べるためにカードで最後にはどうにかするのだから、料理を趣味にすることもない。
物作りは初期に散々頑張ったけど、俺よりも腕の良い職人がいるので、本格的に打ち込むわけでもない、中途半端な俺がやるべきではない。
そんなわけで、直接戦う気が無いのに剣の訓練をしたり、周囲を走り回ったりしている。
あとは農作業の手伝いで、単純労働ぐらいしか思い付かない。
「やっぱり、ご主人は敵と戦わない方が良いと思う」
「言い難いですが、才能がありません」
「うん、大丈夫。分かってた」
剣の訓練は終や魔剣部隊に相手をお願いしているけど、俺に剣の才能は無いと断言されている。
槍の訓練も魔槍部隊と並行して行っているけど、以下同文。
物理に限定すると、魔法寄りの三人娘よりも弱いのである。
俺が前線で剣を振るう事は無いだろう。
どちらかと言えば、剣士が嫌がることを覚えて、逃げるために訓練しているようなものだ。
とにかく数を経験し、一秒でも長く生き残る努力をしている。
「創様。あちらの小石拾いは終わりました」
「じゃあ、こっちの手伝いをお願い」
「はい」
農作業はいい時間つぶしになる。
畑の範囲から小さい石ころを取り出し、カゴに集めて道路に敷いているのだが、黙々と単純作業をする方が俺の性に合っているらしい。
気が付くとけっこうな時間が経っており、声をかけてもらわないと延々と作業し続けかねない。
なので夏鈴と一緒に作業をしているのだが、彼女もなんだかんだ言って楽しそうなので、二人きりの時間である。
莉菜は他にやる事があるので、農作業をさせる暇などほとんど無い。自由時間は休憩するように言ってある。
凛音はこの手の作業が苦手なので、そもそも参加する気が無い。無理にさせる事ではないから、やりたくないならそれでもいい。
そうやって穏やかな時間を過ごしていると、砦が完成し、長弓部隊とその他の部隊が詰めるようになった。
これで10人ちょうど。砦の規模に合わせた運営だ。
後は料理や洗濯のために通うお手伝いさんが数名である。
こちらは移動が大変だけど、日帰りだ。
砦任務は面白みがないので、飯は出来るだけ良いものを融通するようにした。酒を出す頻度も多めにした。
そのため、砦任務は奪い合いとまではいかないが、待ち遠しいイベントの一つとして認識されている。
外敵が来る予定なんて無いからね。戦う気持ちを維持できなくても仕方がない。
だから気持ちの緩みが日常化しそうで怖い。いざって時に戦えるだろうか?
さすがにタイラントボアを使って、気持ちを引き締めるためのイベントなどを起こすといった真似はしない。
だけど何かが無いと、砦はただのお泊まり宴会場になってしまう。
少し、何か考えないといけないと思っていたが…… イベントの方が、向こうからやってきた。