8-2 そうだ、砦を作ろう①
時間が経ったことでなんとなく分かるが、あの三人は俺に気を遣ったのだろう。
自分たちが戦いたいとかだけではなく、俺が日本海側の戦線がどうなっているかを気にしていたから。
行きたくなければ行かなくてもいい、そうは言っても「外敵」から村を守るのであれば、村の傍よりももっと離れた越前の方で戦う事が望ましいのだ。
村の近くで戦えば、村に被害が出るかもしれない。
だったら、遠く離れた場所で戦う方が、理に適っている。
「でもなぁ。越前までみんなを送り込むのは、やっぱり違う気がする。
そうだ、砦を作ろう!」
村の近くで戦った時の事を考えると、いつ防壁が破られるのかと心配でならなかった。
だけど、元から戦闘用の、壊されても構わないという気持ちで作られた『砦』があったらどうだろう?
俺は早速、軍師の夏鈴に相談することにした。
「アリと言えば、アリですね。こちらの人数が少ない事は気になりますが、それでも村の防衛だけではなく敵の早期発見に遠征用の中継地点、いざという時の避難所。使い道は色々とあります」
夏鈴は俺が考えたアイディアを嫌な顔一つせずに検討し始めた。
その中で、パッと思いつく利点をいくつも挙げる。
しかし、だ。
そんな利点のある『砦』を何故、今まで作らなかったのか、という話になるのだが。
「問題は労働力の確保ですね。砦を建造するのに求められる労働力は、以前作られた発電所の比ではありません。
……増やしますか?」
「それは、無い。やらないよ」
単純に、コストの問題だ。
村は電気によって大きく発展を遂げつつあるが、発展させるためにも人手は必要だ。
街灯を作るのは早々に終わったが、普段の農作業や狩猟に加え、道路を敷いたり家を作り直したりと、やらなければいけない仕事は多い。
そこに砦の建造などという事業が加われば、オーバーワークになってしまう。
それでは駄目なのだ。
人手不足を解決する方法に、俺がカードで『ゴブニュート・クラン』を増やすという手段がある。
この際、『ゴブリン・クラン』であっても構わない。
増やそうと思えば、増やせるのは確かだ。
ただ、そうなると新人を受け入れるための家や食料などが必要になり、短期的には思った以上の成果は出ないだろう。
長期的には有用だけど、枠を圧迫しかねない事もあり、俺の中ではまだデメリットが勝っている。
カードで人を増やすという手段は、今のところ取らない。
「ハコの方は、俺が何とかできそうだからね。場所の選定だけは任せるよ。村を防御しやすい場所と言われても、俺では判断がつかないからさ」
ただ、砦の建造なら、俺にならできる事が多いんだよな。
問題がそれだけだというなら、きっちり解決してみせようじゃないか。