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8-1 フリーマン、北へ

 大垣での一件を聞き、岐阜市は俺を雇うことを止めたらしい。

 たとえ強かろうと、「狂犬は要らない」という事だろう。正しい判断である。


 こうなると越前の反応も聞いてみたくはあるけど、あちらさんは、こちらに人を送っていない。

 そうなるとこっちの誰かが俺の噂話を仕入れ、それから向こうで話を振るという手順が必要だ。

 反応があるのは、かなり先の話だろう。





 越前の国のような前線では、「回復用の軟膏はどれだけあってもいい」という状況らしい。

 そんなに怪我人が多いのであれば、富山()薬売りではないが、薬品類の販売数をもう少し増やしてあげた方が良いのだろうか? そんなふうに思う。

 なにしろ、日本海側はたまに海を越えてやってくるモンスターがいるのだから、防壁になってくれている方々にはもうちょっとだけ手を貸してあげてもいい。

 ただし、俺を前線に連れて行くような真似はしないで下さい。



「なぁ。俺たちが日本海側に行くのはアリかな?」


 俺は自分が戦いを好まないという事で、激戦区である越前の国に行く気などまったく無い。

 しかし俺以外の考える事は違うようで、ここで『(あらた)』『(けい)』『(ごう)』の『バトル・フリーマン』3人組が日本海行きを希望してきた。

 普段は存在を意識していないが、ゴブニュート村で日本語教師をしていた連中である。



「別にいいけどさ。何か心境の変化でもあったの?」


「いやー。このところ、ほとんど戦っていないし、なんとなく体が戦いを求めているんだ」

「俺も。終はこっちで結婚したし子供もいるし、無茶はできないだろ。でも、俺らはまだフリーだし。ちょっと戦ってくるぐらいは特に問題ないよな」

「戦うのはもういい、って心境だったはずなんですけどね。もうまともに戦わなくなってずいぶん経ちましたし。そろそろ、また闘いの日々に身を置きたいと思うようになりまして」


 終達がこうやって村に来たばかりの時は、戦うこと以外で生きていけたらと、そんな事を言っていた気がする。

 どうでもいい上司の命令で戦い続けたのだから、そんな考えもするだろう。

 俺はその意を酌んで、彼らを戦力として見ずに教師として扱っていたわけだ。


 しかし平和に身を置くには、彼らは血を浴び過ぎたようである。

 こうしてまた戦おうというのだから、もはや呪いではないかと思う。



 村で教えられることはだいたい教え終わった。

 だから自分たちの為に戦ってくる。


 俺には共感できない事だったが、そうしたいのなら止める事はしない。

 三人に、俺は外征許可を出すのだった。





「外に行くのは構わないけど、カミさんができても連れて帰ってくるなよ。ここの事は教えないように。何十年か先に現地で死んでこい」

「ご主人、たぶん無理だと思う」

「もう結婚の夢は見ないことにしたんだ……」

「我々も、もういい年ですからね。過度な期待はできませんよ」


 外に行く者に対し、俺は希望のある言葉を贈る。

 お前ら、いい年なんだからさっさと相手を見付けろ。結婚してこい。

 そんな言葉だ。


 しかし、フリーマンどもは「無理だろ」とすでに結婚を諦めたようだ。

 ゴブニュート村で、こいつらはいったい何をしたんだろうか? 終のように相手を探していたと思うのだが、上手くいっていないとしか聞いていない。

 アラサーだからまだチャンスはあると思うけど、すでに結婚したいという意思が見えなかった。


「帰ってくるから、お土産を期待しててくれよー」

「創様。何かいい素材があれば、確保してくるぞ」

「半年後には一度戻るつもりでいます。何かあればニノマエの店に手紙を送りますよ」



 三人は、俺の用意した『腐らない弁当』を手に、西へと向かっていった。

 一度琵琶湖に出て、湖岸沿いに北を目指すらしい。


 背中が小さくなるまで見送った。

 あの三人が帰ってくるまで、半年以上。


「ちょっとは寂しくなるね」


 普段は意識しなかった連中であったが、俺以外の、村の者の中には別れを惜しむ者もいた。


 村の家から明かりが一つ消える。

 その家を、他の誰かが使うという話は出なかった。

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