7-23 横暴な法治⑧
貴金属買取店の店長『金野成樹』。
この大垣でも有数の資産家であり、その資産を使って多くの事業に食い込む、経済界における妖怪のような初老の男。
これは初めて聞いた話だが、奴は貴金属の声を聞く事が出来るという。
その能力を使い、若くして誰もが一目置く事業家、投資家として成り上がったそうだ。そしてそのまま大垣市の議員に名を連ねたのだ。
行動は合理性を追求するだけでなく合法ギリギリを攻めるようで、ときどきはみ出しては力業で解決しているという。
味方がいないわけではないが、恨んでいる者は数知れず、間違いなく敵の方が多い性格をしている。
奴の情報は署長が全部ぶちまけたもので、中にはもみ消しを依頼されたという事例もあり、その証拠を残してあるらしいので頂いてきた。
一応2人は味方だったが、署長は金野を信用できないので独自に色々と隠し持っていたのだ。
今回のような件を考えれば、その判断に間違いはなかったと言える。
襲撃に尋問その他を行っていると、中天にあったはずの太陽がずいぶん西に傾いてきた。
夕方まではまだ時間があるが、気分的にもキツいのでそろそろ終わりにしたいところである。
「離せ! 私を誰だと思っている! 大垣市の議員、金野成樹だぞ!」
「嫌だ! 助けてくれ!! 私はこいつに唆されただけなんだ!!」
この、みっともなく喚く男たちに裁きを下して、とっとと帰ろう。
「罪状。
この者らは共謀し、昨日、神戸町で店を営む善良な民間人を12人、店への仕入れ業者2人を不当に拘束し、拘置所にて彼らを拷問にかける命令を下した。
権力の乱用、私利私欲によるこれらの行いは法に照らし合わせて極刑が望ましい。
よって、死刑を宣告するものである」
裁判官のみで、弁護士も検察もいない略式裁判モドキ。
これは裁判のように取り繕っただけのリンチである。
「では、死刑囚両名。最期に言いたい事を言うといい」
面倒なので巻いて話を進め、宣告が終わればいきなり死刑執行である。
この2人のうち、拘置所の所長は間違いなく犯行グループの主犯格なので、こちらは冤罪の可能性がないけど、金野についてはややその可能性が残っている。
なので、念のための確認という事で、最期に言いたい事を言わせてみる。
ここで冤罪だと主張するなら、ほんの少し考えてもいい。運が良ければ死刑は免れるだろう。
「私は悪くない! 悪いのは金野なんだ! あいつに私は唆されて、したくもない事をしたんだ!」
「その割には、若い娘を相手に、積極的に腰を振っていたそうだけどな」
所長の方は、金野が悪いとしか言わない。
スタッフに腹を咥えられ、そのまま人気のないところまで退場した。ついでに人生からも退場だ。
「貴様は、あの時の!!
あの化粧品だけではない、貴金属を生み出すその力! お前のような者が持つには過ぎた力だ! それは私のような者が正しく管理するべき力なのだ!
そうする事で、世界のために貢献できるのだぞ! なぜ大局に立って物を見る事ができない!? 私は何も間違っていない!!」
金野は、やった事を否定しなかった。
ただ、それが悪事であるとは考えていない様子で、「自分のやった事は世の為なのだから認められるべき。それを理解できない人間が悪いのだ」という俺様理論を展開。
周囲が自分を理解しきれない愚民なので裏で動いたが、本来であればそれさえ必要ないのだという。
こいつは俺との論争でもしたかったようだが、俺が付き合う義理は無い。
「自分教」の教祖相手に会話が出来るほど俺は上級者ではないし、処刑するのに論破は必要ない。
「言いたい事はそれだけか? なら、死んでこい」
当方、会話の意思無し。
冷たく切り捨てた俺に金野は何か言おうとしたが、猿ぐつわを噛ませ、トールに足を咥えられ、同じように退場してもらう事にした。
今度は足を咥えられているので、道中、頭を床に打ち付けられて死ぬだろう。それを目撃してしまう人に、心の中で謝っておいた。
あとはあいつらがあんな事をした動機の部分を探る事だけど、これは後でも構わないだろう。
むしろ、人気の多いところで聞くべき事でもない。
俺は思いっきり目立ったわけだが、その情報を拡散させる意味は無いし。
それよりも、疲れたのでゆっくり休みたい。