7-22 横暴な法治⑦
正面からのカチコミ。
まずは警察署の署長から血祭りに上げるべく、日中堂々と殴り込む。
拘置所の所長は夜間だったので不在だったが、真っ昼間ならば署長はいるだろう。不在ならば自宅の場所と居場所を聞き出すだけだ。
まずは署長を吊し上げ、細かい指揮系統を把握し、首魁に辿り着いてみせる。
『悪臭煙玉』で署内とその周辺を混乱させ、待機していた刑事や警官を物理でねじ伏せ、拘置所同様、建物を徹底的に破壊した。署長も無事確保した。
さすがに今度こそ怪我人を出すと思っていたが、今度も無傷の勝利であった。
こんなのが治安維持を担う警察の人間なのかと思いはしたが、強いのは何か理由があって出払っていたのかもしれない。
ただ、今すぐ聞き出したい情報では無いから、今回の事件の背景を確認するのが優先だ。
「か、金なら出す! 一千万でも二千万でも! だから助けてくれ!!」
「アホか。金なんてのは、自分で働いて得た分だけで充分だ。アンタの汚い金なんて要らねぇよ」
警察の長、大垣警察署の署長は小者だった。
でっぷりと太ったハゲで、縛って転がしたら早々に命乞いを始めた。
こんなのを守ろうとした警官達は、戦力差を理解しつつも俺たちに立ち向かっていったというのに、だ。
「神戸町のニノマエ。俺はそこのオーナーだよ。
言いたい事は分かるか?」
「ひっ!? 違う、アレは違うんだ! 私じゃ無い! 私だって昨日、後から聞かされたんだ!!
もちろんすぐに解放させるつもりだった! その為に人を送った! 私はニノマエに手を出せなんて命令していない!!」
解放するために人を送った?
どう言う事だ。もう少し詳しく話を聞かないと。
「同じ派閥に、金野と言う男がいる。そいつだ。そいつが主犯なんだ。信じてくれ」
署長は泣きながら無実を訴える。
詳しく聞き出してみると、あの貴金属買取店の店長が同じ派閥なのをいい事に、拘置所の所長を抱き込んで暴走したらしい。そいつはドSな女好きで、女を好きに出来るからと協力したらしい。
で、一部の良心ある職員が拘置所を抜け出し署長に密告したのが今朝の話。職員本人は昨日の夜には大垣に来ていたのだが、すでにその日の業務が終わっていたため、対応が遅れたとの事。
「私だって、このあたりの治安維持を任された人間なんだよ。そこまで悪い事なんてできないし、もしバレたらと考えれば、間違いなく職を失う。私はクビを切られ、別の人間が署長になる。私はつけ込まれる隙など無く頑張って、署長であり続けたいんだ!
嘘じゃない! 調べてくれれば分かる事だ!」
……ちょっとではなく、かなり頭が冷えた。
誤爆か。
シャレにならない痛さだな。
真犯人に誘導されたとかではなく、部下のやらかしだからと上司のところに殴り込んだわけだが、上司は関与していなかったと。
今度は俺がやらかしたな。
この世界の一般住民は危機管理が出来ているというか、猫を殺す好奇心を発揮するのは少数のようだが、それでも騒ぎが起れば人が集まる。
一連のやりとりを住人の前で行ったので、当初の目的の一つ、「警察のやった犯罪行為を明るみに出す」は達成できた。
警察署長はその犠牲になったのだ。彼は悪い人手はなかったが、世のため俺のため、尊い礎になったのだ。
「正直、すまんかった」
とは言え、やったことは反省するしかないし、関係ない人を手にかけてしまった。
怪我人多数。死者も出た。
怪我人はともかく、死者は手遅れである。
俺は詫びに、魔法の力で怪我を治す軟膏と、毛生え薬を署長に渡した。
これだけで償いとなるかどうかは、「ならない」としか言いようがないが、何もしないよりはマシである。
俺は頭が冷えたので、怒りに任せて突き進む事が出来なくなったが、それでも主犯を捕らえるべく動き出す。
今度はあの買取店だな。