7-19 横暴な法治④
政治的な解決を目指すといっても、それは簡単な事では無い。
警察が事件隠蔽を図った場合、それを止める手立てが必要だからだ。
また、警察を罰するための機関に事情を説明し、相手の違法性を訴えなくてはならない。
「私は岐阜市の警察を味方に付けます。伝手はあるので、そちらに話を持って行けばなんとかなるでしょう。彼は法を厳格に運用する方なので、事情があろうと拷問など許容しません。
それと並行し、創君を勧誘しに来た大垣の、もう一つの勢力にこの情報をリークして、牽制します。敵の敵を利用しましょう。
まずはこの2つの団体を味方にする工作から動きます」
町長さんは基本となる行動方針として、関わる団体2つを口にした。
大垣の警察を処罰する機関としては、美濃の国の首都である岐阜市の警察が適当だと町長さんは言う。
そして、大垣市が一枚岩で無い事につけ込み、内部勢力に楔を打ち込む。
こうすれば、早い段階で町民を救う事が出来る。
なるほど、と俺が感心すると、町長さんは更に抜け目の無い相談を俺に持ちかけた。
「創君は、独自に動いてください。
私たちが公式に依頼して何かする事は出来ませんが、逆に動きを妨げるつもりはありません。
可能なら、武力を用いてでも町民を先に救い出し、証拠を確保してください」
「あー。今の話は聞かなかった事にしますね。でも、俺は仲間を見捨てるつもりはありませんから、町長さんに止められたにも拘わらず、独自に武力でごり押しします」
俺が勝手に動いたのだから、神戸町は関係ない。
何をしても悪名を背負うのは俺1人。
仲間を助けるための覚悟があるなら、いや、その覚悟を決めてくれと俺に言ったのだ。
俺にとっては、分りやすい事をやらかしていいという、無制限許可。
先にやったのは向こうなので、助けるための必要最低限と割り切ってくれるという事だ。
この発言は無責任なようで、かなりの責任を背負う覚悟を決めた証だ。
公式では俺が勝手にやったという処理をするが、非公式でも心の問題として、大勢の人を傷つける覚悟を町長さんは固めたのだ。
命令した人間として、その後の責任を裁かれる事無く生きていく覚悟。
裁かれないという事はけじめを付ける事を許されないという事で、心のしこりが残る行為だ。
犯罪を気軽に行うサイコパスならともかく、善良な町長さんにとってはかなり大きな決断だと思う。
もしもその覚悟が無ければ、具体的な指示など一切せず、「武力を用いてでも」などとは言わないのだ。
お互いにやる事は決まった。
ここから先は協力無しのソロプレイ。
俺自身も大勢を傷つける、殺しまくる覚悟を決めて、大垣へと移動するのだった。