7-18 横暴な法治③
「嘘だ……。まさか、そんな」
「全部本当の事です。信じたくないかもしれませんが、彼らは形振り構わず、俺を捕まえたいようです」
俺が警察の所業を伝えると、町長さんは信じられないとばかりに、憔悴した顔を見せた。
警察は法と秩序の守護者。
そのはずなのに、利益を求め法を犯すなどとは考えたくないのだろう。
公共の利益のために強権を発動させる事はあっても、捕まえた誰かを拷問するほど落ちぶれていると思わないのが普通だからだ。
逆にこちらが引き出した情報としては、捕まった理由やその規模などだ。
一応の理由として、ニノマエが何らかの不正をしているというもの。
商品の流通におかしな点があり、仕入れ先の一部が不透明な事から、違法な取り引きをしていると言われたそうだ。
具体的には“あの”化粧水で、その仕入れ先を明らかにしろと言われたのに、拒否したのが犯罪なのだと。
何が使われて、どのように作られているかも分からない代物を商品にするなと言い、仕入れ先を教えろと迫ったわけだ。
しかも、タチが悪い事に、その場では強く聞き出そうとせず、少しの問答で話を切り上げて連れ去ったという。
そうして従業員全員だけでなく、従業員らと仲の良かった人が数名逮捕・連行されていった。
ついでに、化粧水を納品しに行ったモヒカン2人も関係者枠で連行されている。
町長さんは、逮捕された後に尋問ぐらいはされているだろうとは考えていた。
なので、正攻法で警察の行動に異議を申し立て、被疑者引き渡しを求める方針だったという。数日かかるだろうが、それぐらいは常識の範囲である。
ただ、拷問までされているとなると、帰ってくる可能性はゼロで、そのまま獄中死するだろうと考えられる。
つまり口封じで全員殺されるのだ。
強引な手法だが、死者は何も語らない。何が正しく何が間違っているかを細かく証明する手段が無ければ、事件はそのまま闇に葬られる。
ここまでが状況の整理とそこから考えられる先の展開だ。
「では、それを踏まえ俺たちはどう動くべきか、という話です」
衝撃の度合いが俺より強かった町長だけど、いつまでも惚けていてもらうわけにはいかない。
動かないと状況は改善しないし、誰も帰ってこない。
だったら欲しい未来のためにも動くしか無い。悪党から仲間を取り戻すのだ。
その為に必要な武力がこちらにはあり、あとは落とし所、着地点を決めれば万事解決。問題など無い。
もっとも、武力で解決する事を町長さんが望まなければ、相談に応じて柔軟に対処するつもりでいるけれど。
「まず、私は町長で町の皆を守る義務がある。全員取り返すというのは大前提で、これが最優先だ」
「分かります。俺だって誰1人欠ける事無く取り戻したいです」
この一点は、俺と町長さんの意見に食い違いなど出ない。
最優先目標は皆の奪還だ。当たり前だな。
「次に再発防止。二度とこういう事をさせないためにも警察への掣肘は必要だけど」
「武力行使は取りたくない。そういう事ですね?」
「ああ。私の立場では、まずは交渉をしないといけない。
何を悠長な事を、と思うかもしれない。皆の安全を考えるなら、武力行使で早急に身柄を確保した後に話し合えばいいと思うかもしれない。まずが被害者を要救助者として扱うべきなんだろうね。
それでも、私は政治家なんだ。武力では無く、対話で解決を目指さないといけない。
創君、すまない」
ここでは意見に食い違いが出る。
即断即決、武力行使推奨の俺と、対話による政治的勝利を考える町長の差が出た。
俺は、町長の判断を吟味するため、その後の話をする事にした。