7-17 横暴な法治②
俺の中にあるのは、「神戸町の皆が心配」という天使な思いと、「仲間に手を出しやがって、ぶっ殺す!」という悪魔な思いだ。
正しいとか間違っているとかは関係なく警察の連中はとにかくぶっ潰してやろうと考えているが、町の皆に迷惑をかけられないという制約がある。
この場合、俺はもう一方の当事者として、町長さんのところに行って話を聞くのが最善だろう。
俺が一方的に「こうする事が町の為になるんだ!」と決めつけるより、ちゃんと町の人と話し合って最善を模索する。
悲しい事に、俺は相手の気持ちをちゃんと理解できるほど立派な人間じゃ無いからね。聞かせて貰わないと、相手が何を望んで何がやってもいい事なのか分からないんだよ。
まず、金髪では目立ちすぎるので、黒髪に戻す。
髪を染めている粉はカードアイテムなので、リリースすればすぐに元通りだ。たいした手間じゃ無いし、枠が回復するのでやらない手は無い。
ロン毛はそのまま。ウィッグは外さないが、これで印象はずいぶん違うはずだ。
で、暗くなるのを待って、夜の闇に紛れて町長さんのところを目指す。
街灯のような明かりが無いので、暗い夜と言ってもそこまで遅くは無いのだが、時間が時間なので、町長さんはすでに帰宅している。
だからいつもの職場では無く、自宅の方にお邪魔してみた。
すでに皆が寝静まった、夜の訪問である。
下手をすると押し込み強盗と間違われるが、バレなければ問題ないし、訪問先で勘違いを解けば大丈夫だよ。
俺は無断で入り込んだ寝室で、寝ている町長さんの口を塞ぎ、起きて貰うようにと声をかけた。
「夜分に申し訳ありません。起きて頂けますか?」
ロウソクの明かりで照らされた室内。家人の口を塞ぎ、声をかける俺。
第三者が見たら、言い訳が通じるかどうかは考えなくても分かるな。
一発でアウトだ。
「むぐっ!? うー! う? うぅ」
寝ていたら口を塞がれ声をかけられた町長は、一瞬暴れて俺から逃れようとするが、押さえつけているのが俺と分かると落ち着きを取り戻して、手を外すようにとお願いしてきた。
俺はちゃんと話を出来そうだと、安心して手を離す。
「いやはや。驚かさないでくれ。寿命が縮むほど怖かったよ」
「申し訳ありません」
「ああ、状況は分かっているから、理解はするよ。大変な事になったよね」
町長さんは、大垣の警察が何をしているのかハッキリとは理解できていないようで、どことなく危機感が薄い穏やかな表情を俺に見せた。
彼の中では、警察が連れていったモヒカン2人がどんな目に遭ったのか分かっていないと思えた。
「そうですね。ニノマエに送り込んだ人員が、拷問されるぐらい大変な状態です」
「は!? ちょっと待ってくれ。拷問とか、聞いて――」
「お静かに」
俺が端的に何があったのかを言ってみせると、町長さんは本当に驚いたという顔で、大きな声を上げようとした。
慌てて口を塞ぎ、声が漏れないようにする。
草原大狼に警戒して貰っているから大丈夫とは思うけど、大声を出されると騒ぎになるだろうからね。
ただ、町長の驚きももっともである。
ニノマエは行商に加えて店舗運営をしているが、俺が用意しただけでは人員不足のため、町の人を雇用している。
つまり、神戸町の住人も数名捕まっている状態だったのだ。
「こちらが掴んだ情報は限定的な物です。そちらの持っている情報を教えて頂けませんか?」
「あ、ああ。うん。分かったよ」
彼らが拷問を受けていないとは言い切れず、不安に思い大声を上げそうになっててしまったのも仕方のない話だ。
俺たちは互いの情報を交換し、現状把握から始めるのだった。