1-2 偵察準備
俺の家の近くにはゴブリンの集落がある。
近くと言ってもその集落は10㎞程先にあり、簡単に行き来できる距離ではない。
ただ、森という境界の向こう、同じ森から恵みを得るものとして、いずれぶつかり合うことになる。
俺がゴブリンの数を増やさずに今のままでいれば、そうなるまでの時間は伸ばせると思う。
でも、それは問題の先送りですらない。
状況を甘く見て対策を怠る、現実逃避だ。もしも攻められたときに死ぬしかなくなる。
俺は死にたくないんだ。
生きて、幸せをつかみたい。
こんなところで、訳も分からないまま殺されてやるわけにはいかない。
で。敵と戦うにあたって、重要になるのは相手の情報だ。
戦力を増強し続ければそれでいいかと言うと、そんなわけでもない。
食料増産の目途をつけ、戦力を整えるにしても、相手のことを知らなければ役に立たない強化をするかもしれない。
だから何をすれば勝てるようになるのか知るためにも、相手の情報を探りに行こうと思う。
「地図の作製、敵戦力の把握、殲滅戦のために奇襲する手順の確立。
やることはいっぱいだね」
今のところ、俺はゴブリンの集落があるとしか認識していない。
集落を発見した時は、敵に見つからないことを優先してさっさと逃げ帰ったからだ。
偵察をするにしても、事前に準備をしておかないとなんの意味もない。
何を調べるかを決めて、それに必要な戦力を整えて、ようやく意味が出てくる。
「戦力調査の偵察のついでに、周囲に出ているゴブリンを少し減らすのも手かな」
ゴブリンの合成を始めたのはいいけど、ちょっと後方支援に偏りつつある。メイジとか、ヒーラーとか。
できれば前線用のゴブリンを用意しておきたい。普段使いしないまでも、カード化まではやっておくべきだ。
『木の剣』では『ゴブリン・ソルジャー』や『ゴブリン・ソードマン』は作れなさそうな気がするんだ。どこかで『鉄の剣』を作りたいよ。
それに、使い捨てにするつもりで大量展開する戦術も考えている。
維持を考えないのであれば、悪くない手段じゃないかな。
と言うより、数の差という圧倒的な不利を覆す手段としてはかなり良い手段じゃ無いかと思う。命を駒にするという無機質なやり方じゃなければ。
一応、選択肢として選べるようにはしておかないとな。
なんにせよ、偵察遠征の準備を整えておこう。
ついでに、ゴブリンの集落に何か良さげな物があれば、それを奪ってカード化する事も検討したいな。
手段など選んでられないし、俺が無慈悲な略奪者として振る舞う覚悟を持とう。
生きる事は綺麗事じゃない。
もっとも泥臭く、みっともなく、他の命を奪い続ける事だ。
耳に心地よい綺麗事を実践して死ぬような真似ほど、俺から見て無様な事は無いのだ。
手段など、選んでられない。