7-16 横暴な法治①
化粧水を渡し、「まぁ、俺たちの誰かが行かないといけないって訳でも無いか。
≪サモン≫『ヒューマン・スレイブ』」
少し考え、出した結論。
別の誰かを生け贄に捧げる。
俺は未使用で合成待ちの『ヒューマン・スレイブ』を使い、町に行かせる事にした。
1人はさすがに不自然だろうから2人召喚し、「2人で神戸町に行ってこい、ニノマエの連中にこれを渡してこい。所属は堀井組って事にしておけ」と指示を出し、化粧水を渡す。
「へい、テルの兄貴! 行ってきやんす!」
細かい情報は一切与えず、逆に「俺は堀井組のテルだ」と嘘を言っておいた。
外見を聞かれると嘘だとすぐに分かるのだが、何もしないよりはマシだろう。
そうして化粧水を入れた箱を抱えたモヒカン男2人が神戸町へと旅だった。
「じゃあ、もう少し離れるとしよう」
見送った俺たちは、念のためにもう一つ用心をする。
2人が跡を付けられる事を考慮し、彼らには何も言わずに俺は待機場所を変えるのだ。
元の待機場所が監視できて、ついでに追いかけてきた誰かがいればそれも分かるようにと、都合の良さそうな場所を探してみる。ついでに逃げやすければ、もっと良い。
木登りをしないと駄目だがちょうど良い場所が森の中にあったので、俺たちはそちらに隠れる事にしたのだが。
その後、俺たちが生きた2人を見る事は叶わなかった――
――とまでは言わないが、すぐに戻ってくるはずの2人が1日経っても戻ってこなかったので、俺は≪召喚≫を解除し、もう一度≪召喚≫し直して情報を聞き出す事にした。
「捕まったか。ここまで状況が悪いとは思わなかったけど、本当に、一体何があったんだ?」
神戸町に何かありそうなので、すぐに撤収する事はしない。
森の中に隠れ家を作りつつ、俺は拷問痕の残っていた2人から情報を聞き出す事にした。もちろん、怪我は全部治してあるよ。
「あっしらは、兄貴に言われたとおり、ニノマエの店に化粧水を卸しに行ったんす。そこでブツを渡してさっさとずらかろうとしたんすけど、大垣の警察って名乗る連中に捕まったんすよ。
あっしらだけじゃありやせん。ニノマエの兄弟達も連れて行かれやした。
そこであっしらは、あいつらに……ッ!」
モヒカン2人から情報を聞き出してみると、かなり酷い状況になっているのが分かった。
神戸町が大垣の警察に支配されてしまったかのような状態である。
仲間は捕まり、拷問を受けているという。
実際はそこまで状況が悪いわけでは無く、ニノマエに物を渡すまでに見た町の様子から言えば、ごく普通の状態だったと言う。泳がされていただけかもしれないが。
ただ、神戸町の自治組織よりも大垣の警察の方が上になり、犯罪者確保を理由に強権を発動させているのだろう。俺にとって第二の地元、愛すべき神戸町が敵地になってしまったのだ。
俺と夏鈴の嫌な予感はそれが感じられたからで、勘に従った事は間違いでは無かった。
これほど気分が悪くなる“正解”などそうそう無かった話なので、嬉しくともなんともない。
これはかなり拙い。そして、抑えるのが大変なぐらいムカつく。
まだ捕まっているニノマエの仲間も心配だし、今後の憂いを取り除くためにも俺は何をしなければいけないのか。
逸る気持ちに蓋をして、俺は次の一手を考えるのだった。