7-11 遠距離通信、不可
立て続けに大垣の連中が来たことで警戒してしまったが、その後は特に何もなく、無事に神戸町での交流を楽しむことができた。
夏鈴たちは聞ける状況でなかったから俺が状況を確認してみたけど、勧誘者たちも普段から神戸町に詰めているという事は無く、大垣の2組がここにいたのもただの偶然だったのだ。
俺が全く近寄らなくなったことで、彼らは全員もうすでに撤収してしまったのだ。あとは岐阜と大垣の連中がたまに通いで来るぐらいだ。
そう言えば、夏鈴たちにみんなが群がったのも、勧誘者が居なかったから、そうしたのかもしれない。
人が一気に集まれば注目されるからね。化粧水という目的があったとはいえ、無駄に騒ぎを大きくして勧誘者の注目を集めてしまったのではなく、ただ単に、運が悪かっただけのようだ。
さすがに5ヶ月近く放置すれば、彼らも本気の勧誘を諦めるようだ。
人員を置くのにも費用が掛かるし、人材を遊ばせておくのは無駄な労力だ。
神戸町に勧誘できる人材を就職させれば無駄が無くなるが、俺に対しそこまで手間をかけるかどうか、迷ったようだ。
あとは商隊という形で意味のある人の行き来を作り、俺が来ないか監視すればいいのだが、それでも地元住人の協力が無ければ監視はザルになり、効果が期待できない。
金銭を使って情報提供を呼び掛ける手段もあるが、数人で口裏を合わせ、偽の情報を流されては目も当てられない。
協力しないと罰する、そんな脅しが通用するかどうかは考えれば無駄と分かるというものだ。俺が変装していたので気が付かなかった、そう言ってしまえばお終いなのだから。
たとえ「市」よりも小規模な「町」とは言え、全体の監視にはそれなりの人手が必要なのだ。
俺が寄り付かなくなった理由まで考えれば、費用対効果は推して知るべし。
捕まるのを嫌がりコソコソする俺を勧誘するなど、金と人の無駄遣いなのだ。
対外的な理由で変装そのものは続けるし、偽名もそのままにするが、今後も神戸町には安定して通えるようである。
念のためにと携帯電話でも用意したいけど、さすがにそんなものを作る手段はない。
尾張の国は無線通信を実用化しているようだが、そんなものが俺の手持ちにあるわけではない。
残念ながら、どうやって電気を入手するか、見当もつかない。
発電機の仕組みは知っているし、それをカードで作ることは不可能ではない。コイルと磁石があればいいので、これは作れる。
しかし、その後の無線通信をどうやって行っているのかが分からない。電波を飛ばすというのが、何を使う物とか、どういう仕組みなのかを知らないのだ。
災害時にできる、傘のフレームを使ったラジオ受信機の作り方は覚えているんだけどなぁ。
欲しいのが発信局だと、どうしようもない。
そもそも、電気を起こしたところで変圧やら何やらを行い、安定した電圧にしないと使い勝手が悪い。
発電機だけではなくバッテリーなどの用意も必要だし、ただ電気を起こしたというだけでは意味が無いのだ。
工業的な考え方で、いつでも同じ、どれでも同じという「定格化」ができないとダメだ。
思考が駄目出しばかりでネガティブになってしまったが、こうなったら、不意の遭遇は考えない事にする。
多少のリスクは受け入れるべきだ。絶対に安全な手段など、この世界のどこにも無いんだから。