7-10 神戸町に変装で④
どうやら俺は、大垣の勧誘者に目を付けられたようである。
それが創としてのものかどうかは分からないが、面倒で厄介な事になったかもしれない。
ただ、化粧水の人気を考えると、神戸町のみんなは完全に俺の味方になったと思う。
カイと名乗った事と合わせて、捕まえに来るようであれば、相応の対応をしても大丈夫のはず。
そしてまた来るという約束を町のみんなと取り付けているので、逆に次回が無かった方がより怪しまれる。怖い部分はあるが、ここは堂々と振る舞うべきだろう。
そうやって考えをまとめると、今度はさっきの男よりももっと強そうな、青い服を着た連中が現れた。一人や二人ではなく、五人組である。
服装を見ればわかるけど、警察だろうね。大垣の。
あれからずいぶん経ったけど、一回見た事があるので間違いないはず。
「貴様が創だな。我々は大――」
「違います」
今度の連中、名乗りはするけど、こちらが誰かを確認しない。
なので、話の腰を折るように、食い気味に否定をかぶせてみた。
「はじめまして。カイといいます。
そちらは警察の関係者のようですが、何か御用でしょうか?」
まずは別人アピール。
聞いてもらえないなら、こちらから名乗るしかない。
創だというのを否定しないと、捕まっちゃうからね。これぐらいはしないと、正当性が無くなる。
「う、うむ。そうだ。我々は大垣の警察署所属の、萩森だ」
出鼻をくじかれた警官、萩森というリーダーっぽいおっさんは、意表を突かれはしたものの、どうにか対面を取り繕う。
そして隣に控えていた男に目配せすると、その男が首を横に振ったのを見て、苦い顔をした。
「では、創という男を知っているか? 何か情報を持っていないか?」
「創の事は知っています。普段はここから離れた皆も教えてもらっていない場所にいますが、そこに篭りきりみたいです。場所については誰かに教えたという事は無いようですね。俺の知っている範囲では、ですが。
あとはあまり詳しくは知りませんが。どこで生まれたとか、今いくつだとか、親が誰なのかとか。そういう事は全く分からないんですよね」
萩森は、俺が創でないという前提で質問をしてくる。
創が何をしたのか、会ったらどうするのかを教えてもらっていないが、ここは正直に情報を渡すとしよう。
心の中で「村は秘密だし、記憶喪失だからな」と考えつつも、雑に本当の情報を伝える。
萩森はもう一度隣の男の方を見るが、その男はまた首を横に振った。どうやら、この首振り男は俺の言葉に嘘が無いか判断しているらしい。しかもかなり信用されている。
で、俺の発言に嘘が無いから、悔しいという事かな。
「時間を取らせて申し訳ない。では、本官はこれで失礼する」
適当に言葉を伏せつつ、嘘は言わずに対応していると、萩森さんは素直に帰っていった。
最初こそ決めつけがあったけど、その後の対応はまともなので高評価だ。話の出来る相手って良いよね。
こうして俺は二組目を撃退したわけだが、変装をした意味があるのか分からなくなり、今後どうするかを考えるのだった。