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7-9 神戸町に変装で③

 町に入ると、すぐに人が集まってきた。


「さっきの化粧水! もう在庫は無いの?」

「取り寄せは頼めないか? かーちゃんが買って来いってうるさいんだ」

「あー。また今度持ってくるけど、量は期待しないでよ。ここまで持ってくるのは大変だからさ」

「予約は?」

「駄目」


 鶏はこれから増やす事になるので、詰め寄っても無駄。

 しかし化粧水はまだ在庫があるかもしれないと、そんな淡い期待をしているようだ。


 残念ながら、化粧水は夏鈴が持ち込んだ分で終了だ。手持ちなど無く、諦めてもらうしかない。

 で、次回に期待し、予約をしたいという人もいるけど、そこまできめ細かな対応をする気は無い。


 持ち込む量を増やすといった努力はするけど、カード化がバレない程度しか持って来ないつもりなのだ。どうしても限度があるんだよ。

 下手にここで予約を受け付けると、どこまでも化粧水に振り回されることになりそうなので、却下だよ。


 なにより、化粧水を作っているのは俺じゃなくて莉奈なんだ。俺が勝手に決められる事でもない。





 そうやって俺が客の対応をしていると、その中に見慣れない顔が混じった。

 アラサーで、筋肉の付いた大きい体を、上等な生地で作ったスーツっぽい服を着た男だ。こんな特徴的なのは神戸町にいなかったと断言できる。

 誰かと思ったが、近くにいたお姉さんが「大垣、スカウトの人」とかなり小さい声で教えてくれた。


「失礼。客ではないのだが、名を問いたい。貴方が創さんかな?」

「いいえ。カイと言います、初めまして」


 初見の人はこちらの名前を確認してきたので、さらりと偽名を名乗る。

 創も自分でつけた名前だから、これも親の付けた本名じゃないんだけどね。


 「カイ」というのは、壊すという意味の「(カイ)」だ。

 元の名前が創なので、逆の意味にしてみたわけだ。創造の逆、破壊の「破」の字は名前向きじゃないのでカイにしたんだよ。

 当たり前だが、みんなには先に話を通してある。夏鈴はその為にも先行したんだよ。



 俺が別の名前を名乗ると、それを気にした風でもなく、初見の人は話を続けようとした。

 こちらが名乗ったのに名乗い返さないあたり、あんまり優秀な人とは言い難いね。

 初見の人との会話の基本は、挨拶と自己紹介だぞ。覚える気も無いから聞かないでおくけど。


「先日見えた、終という男と、夏鈴という娘。カイとはどんな関係なのかね。

 夏鈴とカイは同じ髪の色だが、兄妹か何か、血縁なのか?」


 グイグイと詮索してくるが、どうでもいいので無視をする。

 名乗られても無い、客でもない。

 だったら相手をする理由も無い。


 大垣側のスカウトと聞いたが、あちらさんは人材不足なのかね。コミュニケーションスキルが残念過ぎる。

 あの買取店の店長もそうだったけど、上から目線で強気に出れば何とかなると思っているのかね?

 敵対派閥というのは自作自演で、俺を大垣にしょっ引くための人間じゃないだろうか?



 俺がまともに相手をしないと分かると、男は次第に不機嫌になっていく。

 自分が話しかけているのに無視するとは何事か、という所か。


「おい、貴様! ちゃんと返事をしないか!!」

「客でもなければ礼儀も知らない。まともなのが服装だけの野蛮人の相手をする暇なんて無いんだよ」

「他の連中など、それこそ無視をすればいい! 今は私の話を聞け!!」

「馬鹿の相手なんて時間の無駄、お断りだね」

「私を誰だと思っている!!」


 男は喧しく騒ぎ立てるが、名乗りもせずに「私を誰だと思っている」と言われても、知らんとしか言いようがない。

 本気で馬鹿だなぁと、一周回って感心しそうになるが、こんな奴の情報、俺にしてみればどうでもいい事である。知りたくも無い。



 さっさとどっかに行けと、手で追い払うようにすると、「なんで無礼な奴だ!」と言って去って行った。


 暴力に訴えないだけの理性があったのか、それとも暴力では敵わないと逃げたのか、はたまた俺が暴力を振るう事を期待していたのか。

 一人目の勧誘者、大垣の誰かはそうやって俺から背を向けた。


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