7-8 神戸町に変装で②
半日後、神戸町に行った夏鈴たちが戻ってきた。
金に染め櫛で梳かした髪はほつれ、化粧の効果が消えたのか肌の艶が減り、近くで見れば目に生気が無い。どこからどう見てもやつれた感じだ。
町ではとても酷い目に遭ったようで、終に支えられての帰還である。
「おかえり。その、町の様子はどうだった?」
「……大変でした」
のんびりしながら待っていた俺の出迎えに、夏鈴は万感の思いを一言に込め、絞り出すように返事をした。
これでは報告にならないので、終の方を向き、代わりに報告をお願いする。
「化粧水をニノマエに卸すって話だったけど、夏鈴の肌に気が付いたお姉サマ方に囲まれて、その場で売ることになっただけだ。言葉で報告すると。
あれは、実際に経験しないと分からない。俺も外で見てただけだから、まだ圧は感じなかった方だけど、それでも凄かったぞ。
あと、ご主人はみんなから慕われてたからな。みんな、すぐに会いに行けるようにと考えていたみたいだ」
どうやら、コミックみたいな展開があったようだ。
ああいう展開をリアルにしようと思うと町中から人を集めることになり、「どうやって集まったんだよ」ってツッコミを入れたくなるわけだが、偶然ではなく必然だったらしい。
前回、町に入った時に俺の顔を見れなかった人は悔しかったらしく、それに備えていたパワーが夏鈴に向かってしまったと。
「ま、人気が出たみたいで何よりかな。
これなら、俺が行ったときに人が俺の所に集まっても言い訳ができそうだ」
思ったよりも人気が出た化粧水。
目立つことを覚悟で持ち込んだ商品は、俺が多くの人と会っても不思議ではない状況を作るための布石だ。
「あの化粧水が欲しい!」と女性たちが考えてくれれば、それを得るためにと言って、みんなは俺の所に来れるのだ。
他には寄らないのに定期的に神戸町へやってくるなど、不自然な点はまだ残っているが、何もしないよりはマシである。
俺は自分のやったことに自画自賛しながら、次の話を振る。
ついでに捌いた猪の肉を串焼きにして、終に渡す。
「町に入っている余所者連中。そっちの方はどうだった?」
「残念だが、そっちの情報は特に代わり映えが無かったな。夏鈴が囲まれてまともに仕事できなかったから俺の方で動いてみたが、素人が歩き回っただけだとまともな成果なんて出やしない」
俺が「ほれ、食え」と塩で味付けしただけの串焼き肉を渡せば、「いただきます」と言って終は肉を食う。
そして肉を食い終わってから報告を受け取れば、成果なしという回答だった。
まぁ、仕方がない。
もしも隠れて動いているのがいた場合、素人が見つけられるはずも無いからな。
夏鈴はある程度の専門性を持っているが、それが本業でもないし、身動きできない状況だったようだし。
何もかもが上手くいくとはいかないものだ。
「じゃあ、二人は明日、ここで待機。
予定通り、俺たちが神戸町に行くよ」
「分かった」
今度は俺が動く番である。