1-1 ゴブリンの可能性
俺が『カード』という能力とその最低限の使い方だけを叩き込まれ、人っ子一人いない土地に飛ばされて3ヶ月が過ぎた。
能力を手に入れた反動か、俺は記憶のほとんどを失いつつも、異郷の地で生活基盤を作ることになった。
森と水場のそばに家を建て、ゴブリンを戦力として使役して、畑を耕しつつ生きている。
俺が来たばかりのころは、春だったらしい。
今では汗ばむ陽気となり、畑仕事も大変になってきた。
あれから俺は、兎を1匹カード化しておいた。
畑の雑草を食べる生き物がいてもいいと思ったからだ。害獣の方は『草原狼』が番犬として待機しているので、畑の手伝い担当である。
畑を広げるのにも兎の食欲は有効で、自分で草を引いたりしなくても兎が草原を裸にする勢いで草を食べ散らかしているので、草のない土地は地味に広がっている。
まぁ、たった1匹で草原が無くなるというのは言いすぎなんだけどね。
……10匹いたら過言じゃないかもしれないが、その時は狼に食われるんだろうね。きっと。
ゴブリンたちだけど、何とか3匹ともレベル16まで成長した。
だけど、ただレベル16にしただけじゃ『進化』できない様子。先に『強化』して方向性を定めるなりなんなりしないといけなかった。
で、有効だったのが頭をよくした後に、『魔法使いの杖』を『合成』するやり方。
これで『ゴブリン+1』が『ゴブリン・メイジ』になった。
使える魔法は『リトルファイア』と『マナボルト』の2つだけ。
それでもカード抜きで魔法が使えるようになったのは大きい。
俺用の『魔法使いの杖』が無くなったのは痛いけど、また用意すればいい話だし。
量産するための『リトルファイア』はまだあるので、『木の杖』を削らないとね。
そうやって、他のアイテムと『合成』することで進化のような成長を遂げたゴブリンを見ると、別のことを考えてしまう。
『ヒール』をベースに『合成』したら、『ゴブリン・プリースト』とかできないかな?
そんな風に考えていたら、別口の『合成』ができた。
『薬草の葉の束 ☆』+『ゴブリン+1☆☆(知力強化)』=『ゴブリン・ヒーラー』
『薬草の葉の束』は、ヨモギやなんかの傷薬になるものだ。
一瞬で傷を治せる『ヒール』のようなものではなく、傷口が化膿しないようにする、その程度の効果だね。
これを知力強化のゴブリンに合成してみたら、薬草関連のエキスパートになった。あと、魔法に頼らない怪我の手当てもできるみたい。
戦力強化とはちょっと方向性が違うけど、これはこれで美味しい。
できることがまた一つ広がった感じがする。
こうやってパワーアップしたゴブリンは、それぞれ『凛音』『莉奈』と名付けた。
2匹とも雌なので、女の子用の名前である。
切実に、雄ゴブリンが欲しいです。
いずれ繁殖とかできないかなぁって思ってしまうんだよ。
初期からいる夏鈴は、まだゴブリンのまま。
夏鈴はそのままゴブリンとしての上位種を目指すため、強化を重ねて進化の道筋を探っていくつもりだ。
ゴブリンの可能性を探る試みは、まだまだ始まったばかりだ。