7-2 神戸町からの情報
ニノマエを通じて神戸町と顔を繋いでいる状態だけど、やっぱり会えないのは寂しい。
あっちはあっちで忙しいため、俺の周辺調査をされているかどうか、そういった事を調査させる暇も無い。
店と行商、二足のわらじを履かせているので、これ以上の負荷をかけることなど出来ない。「やれ」って言えばやってくれそうな気はするけどね。
会えないのは仕方がないとして、「せめて自分に出来ることをしよう」と言うわけで、月一のペースで神戸町周辺のイノシシを狩っている。
イノシシはどれだけ狩っても他所から流れてくる様で、一時的に集が悪くなることがあっても、一ヶ月経てば元通りだ。これまで何頭狩ったかも分からないが、もしかしたら、これまでに食べた食パンの枚数よりも多いかもしれない気がする。俺の脳みそに食パンを食べたという記憶は無いけど。記憶喪失だし。
そんなわけで、そろそろ雪が降りそうな寒さの中、いつもの場所でイノシシ狩りに精を出していると。
「あ、いたいた! 創君!」
知り合いが数人、俺の所に現れた。
リーダーを務めるのは魔法使いの蓮見さん。その昔はハニトラ要員として俺に接していた人だけど、脈がないと理解したのか、今では友達程度の軽い付き合いに切り替えたお姉さんである。
最初の方こそ接待役として俺が神戸町に行くたびに顔を合わせていたけど、町でも希少な魔法使いで忙しいからか、最近はたまにしか顔を合わせることがない。
「今日はイノシシ狩りですか? 残念ながら、もうけっこうな数を狩った後ですよ」
「そうじゃないわよ。普段なら、今日頃にイノシシ狩りをしているでしょう。だから創君に会えるだろうって思ったのよ。
無駄足にならなくて良かったわ」
蓮見さんは俺と簡単に言葉を交わすと、辺りをキョロキョロと見回した。
「あれ? 夏鈴ちゃん達は?」
「三人は、今日はお留守番です。と言っても、一人で来たわけではありませんけどね」
「へー。夏鈴ちゃんって、創君にべったりっていうイメージがあったけど。別行動もするのね」
ちなみに、他2人は村に居るけど、夏鈴だけはわりと近くに控えている。
念のための周辺警戒、そして蓮見さん達が付けられていた時の対処のために別行動をしているのだ。
蓮見さんの人格は信用しているけど、相手が蓮見さんを利用して自由にさせているという可能性が無いとは言い切れないのだ。警戒するに越したことはない。
そんな風に言われたので、夏鈴たちに用事でもあったのかと思ったが、蓮見さんはただ顔を見たかったというだけらしい。残念そうにしていたが、本題は別にあるという。
「今日、ここに来たのはね。創君にこれを渡すためなの」
「なんです? 書類?」
「うん。ここ最近、創君のことを調べていた連中の情報」
「いいんですか、それ?」
「いいのよ。これは町の皆の総意よ。
創君はこれまで町のために良くしてくれたわ。あの化け物猪の情報だって、私達のためだったんでしょう? 倒した後、何も言わずに帰っても良かったんだし
だったら今度は私達が創君のために何かする番よ。支え合って生きていくものでしょう、人間って」
蓮見さんの用事は、俺に情報を渡すためだった。
町長も国からの要請で俺を引き渡すようにと言われていて、それに従わないといけないから、自分の所には来ないようにと強めの言葉で一言添えていた。
外の人間だけでなく、大垣の警察なども独自に俺のことを探していて、3ヶ月経った今でもまだ危険だと予測されている。
この狩り場も、別の所に移すか、せめて狩りに来る時期をずらすようにと注意されていた。
蓮見さんも、俺がわりと決まったパターンを守って動いていると思ったからこそ、こうやって会いに来たわけだし。
行動を読まれて面倒なことになるのは、確かに面白くない。
ただ、これを利用することも視野に入れるべきか?
俺は蓮見さんにありがとうと言うと、1人になってから今後のことに頭を使うのだった。