6-25 魔法溶鉄
二時間はけっこうではなく、かなり長い。
で、そんな長い間ふいごを吹かしていた俺は腕が疲れ、途中で『ヒール』のお世話になりつつも、終わった時には疲労困憊であった。
「あー。冷えた水が美味い」
冷やした状態でカード化した、カップに入った水を飲み干し、一息吐く。
流した汗の分だからと、ちょっと塩をなめてもう一杯。
休憩を終えると、できあがった鉄をカード化し、その質を確認する。
『鉄のインゴット(低品質)』:アイテム:☆☆:小:1時間
鉄のインゴット。不純物が多いため、衝撃を受けると簡単に砕ける。
出来たインゴットの品質は、鉄鉱石よりはマシという程度の代物。
鉄以外の金属がかなり混じっているので、このまま使うことはできない。一度進化させて、不純物を取り除く必要がある。
その時に使う魔力だけど、鉄鉱石を鉄に変えるよりは少なくて済む。
しかし労力その他を考えると、割に合わないとしか思えない。
俺がそんな風に微妙な表情をしていると、ひょっこりと凛音が顔を出した。
「創様?」
「ああ、今は鉄を精製していたんだよ。
ただ、労力の割に上手くいかなくてね。ちょっと、なんとかならないかなって考えていたんだ」
俺の表情に対し、凛音は「何があったの?」という顔をした。
なので、簡単に現状を説明する。
すると凛音は何考えついたようで、俺に鉄鉱石のおねだりをしてきた。
「見てて」
同じように粉々にした鉄鉱石の粉を炉に入れて、燃料を入れずに蓋をする。
そして凛音は。
「『コンテニュティティ・ファイア』」
俺も初めて見る魔法を使った。
『コンテニュティティ・ファイア』、継続する炎という意味の魔法は、炉の中で魔力を糧に燃え盛る。
ふいごは要らず、何もしなくても温度は鉄を溶かすところまで上昇している。内部からドロドロに溶けた鉄が流れ出してきた。
「はー。これは考えていなかったかな。凄いな、凛音は」
「えへへー」
普段は口数少ない、しっかり者といった雰囲気の凛音だが、俺が驚き感心しているのが分かると、相好を崩して笑みを浮かべた。
かなり珍しい表情なので、俺は思わず手を凛音の頭に乗せ、髪型を崩さないように丁寧に撫でる。凛音は目細め、気持ちよさそうにしている。
頭を撫でながら、俺は凛音のやったことを反芻する。
溶鉱炉を魔法で運用するというのはありだと思う。
燃料を用意しなくていいのはかなり助かるし、少ない手間で製鉄が出来るのなら、これを継続して出来るようにするのを新しい目標にしてもいい。
さしあたって、凛音の新魔法『コンテニュティティ・ファイア』をスペルカードで作ってみればいいだろう。コンテニュティティ・リトルファイアなら手持ちがあるので、これを強化すればいいだろう。
普通の『ファイア』では鉄を溶かせないので、色々と実験が必要だな。
俺は新しい可能性に希望を見出していた。