6-21 覚悟完了
毛皮の売却をした事で、町長さんの表情が緩んだ。
あちらにしてみれば無理難題を吹っ掛けたって認識だろうけど、こっちとしては「これからも仲良くしましょうね」って考えもあるから、そこまで嫌な気分にもならないんだよね。
むしろ、喜んでくれて嬉しいな、とも思うよ。
俺が毛皮を渡そうとすると、その前に言う事があると、町長さんはいきなり頭を下げた。
「恩を仇で返すようだが、先にこれだけは言っておかないといけない。
私は神戸町の町長として、みんなにあの化け物猪が倒されたことを伝えなくてはいけない。これは神戸町だけに留まる問題ではなく、美濃の国全体の問題だからだ。だから“美濃の国の”みんなに私はこの話をする事になるだろう。
その時、どうしても創君の情報も伝えることになる」
町長は頭を上げ、俺の目を見た。
「これまでと違い、神戸町の中でも創君に過干渉する輩が出てくるだろう。
それが分かっていても、情報を隠す事はできない。町長としての責務を、私は果たさねばならないんだ」
そして町長はもう一度頭を下げた。
言われたことを頭の中で整理する。
これは俺の情報が相当広範囲に露出するという事だ。
流出などという生易しい物ではなく、露出だ。
町長が言うように、馬鹿な連中の干渉が始まることは間違いない。
単純に戦力を欲しがる連中はどこにでもいる。
戦力を必要とする戦場はどこにでもある。
ぶっちゃけ、アンカマーの侵入を防いでいるという日本海側の国とかからスカウトが来たり、そっちに送り出そうとする内陸の国があるんだろうね。
俺は流民で、土地に縛られない人間って事になっている。
だから庇護も義務も無い俺は、そんな連中の言葉に従う必要は無いんだけどね。逆に、そんな流民だからこそいう事を聞かせてしまえと考える奴が出てくるのは想像に難くない。
どう考えても面倒な事になった訳だ。
「ああ、構いませんよ。
こちらも、それを見越して手札を全部晒しているわけではありませんから。バレても問題ない」
「は?」
「いや、さすがにこれぐらいは最初から想定していましたよ。だから、何も問題ありません」
ただ、これぐらいの事は少し考えればわかる事だし、そうなることは覚悟のうえで報告しているんだよね。
それが嫌なら、タイラントボアを倒した事を隠し、「失敗しちゃいました。テヘッ」とテヘペロかませば済む話である。
俺はそんな事より、みんなが安心できるように戦勝報告をしたのだ。
だから、構わないと笑ってみせる。
「あ。でも、面倒な連中をぶん殴っても、見て見ぬふりをしてくださいね」
「それは――即答しかねるね。できるとは、断言できないよ」
この身はすでに、覚悟完了。
俺は何もしない賢者ではなく、覚悟を決めて先に進む愚か者である。